2015年、その年の最も優れた文具に贈られる「日本文具大賞」の機能部門グランプリに、「SUITO cleaning paper(スイト クリーニングペーパー)」が選出されました。

万年筆のペン先をクリーニングするためだけに作られた、あまりにもニッチかつ斬新な文具。数ある文具の中からこのアイテムがグランプリを受賞すると予想していた人は、どれほどいたでしょうか。

  • 「SUITO cleaning paper(スイト クリーニングペーパー)」

驚きのアイテム受賞の背景には……

「SUITO cleaning paper」を作ったのは、神戸で60年以上印刷業を営む大和出版印刷。同社は2011年に「神戸派計画」というオリジナル文具ブランドを立ち上げたばかりの、いわば文具業界の新顔です。

老舗文具メーカーの製品をおさえて同社の「SUITO cleaning paper」がグランプリを受賞できたのは、ほかにはないアイデアと商品力があったからこそ。そして近年の万年筆ブームを象徴したアイテムだったからなのです。

  • 近年の万年筆ブームを象徴したアイテム

そう、今はまさに空前の万年筆ブーム。これまで万年筆を愛用していた人たちだけでなく、若者や女性など万年筆に触れてこなかった層が万年筆の魅力に目覚め、日々の生活の中でカジュアルに使用するようになりました。

そのきっかけとなったのが、2013年に入門者向けの安価な万年筆として登場したPILOTの「kakuno(カクノ)」です。価格は何と税込みで1,080円。2017年には待望の透明ボディが発売され、その人気はとどまるところを知りません。

  • PILOTの「kakuno(カクノ)」

万年筆の新たな楽しみ方「カラーインク」

そしてもうひとつ、若い女性たちを虜にしているのが、美しい万年筆用カラーインクの存在。PILOTから発売されている「色彩雫(いろしずく)」やプラチナ万年筆の混色できるインク「ミクサブルインク」、セーラー万年筆のカラー顔料インク「STORIA(ストーリア)」など多種多様なカラーインクを楽しめることが大きな魅力となり、今の万年筆ブームを支えています。

  • カラーインクが広まる先駆けとなった「ナガサワ文具センター」のオリジナルインク「Kobe INK物語」

万年筆でカラーインクを楽しむという考え方は、ここ10年で急速に広まりました。その前まで万年筆のインクといえばブルーブラック、ブラック、ロイヤルブルーなどが基本。ピンクやグリーンなどカラフルなインクを楽しむという概念はほとんどないに等しかったのです。

カラーインクが広まる先駆けとなったのが、神戸で130年以上続く文具店「ナガサワ文具センター」のオリジナルインク「Kobe INK物語」です。

  • 多種多様なカラーインクを楽しめる

「Kobe INK物語」は2007年にシリーズ1色目となる「六甲グリーン」を発売。その後次々と神戸の自然や街並みを再現したカラーインクを発売し、今では日本一の色数を誇るインクシリーズとなりました。「Kobe INK物語」を開発した竹内直行さんは、「万年筆の世界をカラーにしたいという思いからインクを作り続けて早10年。かつてからは想像できないほどに多くの人が色とりどりのインクを、日常の中で楽しむようになりました」と語ります。

カラーインクに魅せられてたくさんの種類を蒐集する人々を、今では「インク沼」にはまっている、と表現するようにもなりました。美しい色のインクが瓶に入って並んでいるのは、見ているだけで幸せになれるのでしょう。もちろん、「インク沼」の人々はインクを集めるだけでなく、積極的に使っています。カラフルなインクを最大限に活用できるよう万年筆インクでイラストを書いたり、塗り絵をしたりするという人も増えています。

万年筆ブームで続々と増えるニッチな関連アイテム

冒頭で紹介した「神戸派計画」は、「SUITO cleaning paper」以外にも万年筆の筆記性を追求したオリジナル用紙「GRAPHILO(グラフィーロ)」を使った一筆箋やノートも好評。万年筆のブームが広まるとともに紙にこだわりを持つ人も増え、「GRAPHILO」のような万年筆専用用紙や上質な紙を使ったノートの人気も上昇しています。

  • 万年筆のブームが広まるとともに紙にこだわりを持つ人も増加

さらに、大阪で紙問屋を営み、オリジナル文具も製造・販売する山本紙業では、紙の試し書きをさながらワインのテイスティングのように楽しめる「Paper tasting」というアイテムを開発。赤や青、半透明など様々な紙が色ごとにセットになっていて、万年筆やボールペンで試し書きをしながら好みの紙を見つけたり、筆記感の違いを楽しんだりできるのです。

万年筆を多くの人が使用し、様々な楽しみ方をするようになった今、万年筆と一緒に使う道具、周辺の文房具も次々と新しいものが生み出されています。これまで当たり前だった「万年筆とはこう使うべきもの」「このようにあるべきもの」という固定概念が、いい意味でくずされた結果なのかもしれません。

万年筆は敷居が高い、というイメージはどんどん薄れていき、今ではファッショナブルかつカジュアルに、気軽に使用できるアイテムになってきました。それを支え、さらに盛り上げてくれている存在が、カラフルなインクや万年筆に関連するニッチなアイテムたちなのでしょう。

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まき(福島槙子)
文房具の魅力を発信するウェブマガジン「毎日、文房具。」副編集長。文具プランナーとして文房具の情報を発信。その人その人にぴったりの文房具を見つけるお手伝いや、日々の生活に役立つ文房具、主婦目線での文房具の使い方を提案しています。各種メディア・イベントへの出演やコラムの連載も多数。著書に『まいにちねこ文具』(エレキングブックス)。福島槙子公式ブログ