出演者に化学反応を

――ちょっと斜に構えている宮本隆良役の、長妻怜央さん。阿部さんと同じユニットのメンバーなんですね。

怜央くんも、本当にポテンシャルがすごいんですよ。つい見ちゃう。もちろんまだ、演技について知らないこともあるし、基礎を固めていかないといけない部分はあるんですが、怜央くんがそういう武器を持った時の強さが見えるから、少しでも高みに連れていけるような演出家になりたいなと思っています。

顕嵐くんと怜央くんの同じユニットの安井(謙太郎)くんとは前に作品で一緒になったことがあるんですが、安井くんからは「うちの顕嵐と怜央がお世話になるのでよろしくお願いします」って、保護者みたいなメールがきました(笑)。

――舞台経験はあまりないけど、それだけポテンシャルがあるんですね。

まず、持って生まれたものがある子なんです。神様からのギフトを持っているから、まだ経験値がないだけであって、経験さえ積めば僕らでは手の届かないところに辿り着けるんじゃないかなと思います。

――神谷光太郎役の鈴木勝大さんは、映画『帝一の國』などでも注目されていますね。

勝ちゃんは、今回すごく頼りにしています。ガラッと場の空気を変えられる役者さんなんです。光太郎という役も実際そういうキャラクターだし、勝ちゃんが現れることによって、冷たい部屋が明るくなったり暖かくなったり、笑っちゃうような景色が見えたりする。笑える部分の雰囲気は、勝ちゃんが作ってくれますね。

――それは、本人の資質も関係するものですか?

ありますね。パンっと声が出て、カラッと心の状態を変えられる役者さんなんです。役者さんにもいろんなタイプがいて、徐々に変えていける人もいれば、ベタッとしたところが持ち味の人もいますが、勝ちゃんはカラッと変えていける人だと思います。

――拓人から思いを寄せられる、田名部瑞月役の宮崎香蓮さんについてはいかがですか。

ザッキーはすごく等身大の人、という印象です。もともとの才能よりも、努力で進んできた人だと思うんです。だから真摯に役に向き合えば、お客さんが最も感情を入れやすく、そこが武器になるはずです。ザッキーが舞台上で輝くと、お客さんはすごく勇気を持てるんじゃないかな。

――サワ先輩役の小野田龍之介さんは、もうかなり経験も豊富で。

もう、演出家にとって、役者というだけではなくて"参謀"みたいな感じですね。的確なことを言ってくれるし、この座組にいてくれてよかった。龍ちゃんには、みんなの声のトレーニングもやってもらっているんです。昔、鴻上(尚史)さんに「小劇場出身の役者は、無免許運転みたいなもの」と言われたことがあるんですが、僕らは演劇研修所とかでトレーニングを積んだわけじゃなくて、「アクセルふんだら進むから!」みたいな感じで公道を走っている状態(笑)。でも龍ちゃんは子どもの時からトレーニングを積んできていて、いわば免許皆伝です。だから、免許を持った参謀です。

――色々なバックグラウンドの方がいる舞台ですよね。

そうなんです。だから化学反応を起こさせて、強い作品をつくりあげていけたらと思います。

就職活動のリアリティも必要

――「就職活動」がキーになる作品をステージ上で表すにあたって、演出でのポイントや、難しさはどのようなところですか?

ショーアップされて見せる演出も考えています。しかし就活独特の強迫観念や焦り、そして同じ就活生でも色んなスタンスの人がいるという雰囲気を、6人がうまく表現していかないと、間口の狭い作品になってしまう。また、いかに就活をしたことない方にも彼らの気持ちを理解してもらうかは大きなチャレンジですね。

エントリーシートとか、僕自身もものすごく悩んだ思い出があります。「自分の長所は?」とか、突きつけられるじゃないですか。人生でそういった場面は就活以外にももちろんいっぱいあるとは思いますが、多くの人にとって最初に来るものだし、日本は終身雇用みたいなイメージもあるから「今後の一生を決めるんだ」ということを思うと、震えて足がすくむ感覚です。

――出てらっしゃるみなさんも、日々の選択はされていそうですよね。

顕嵐くんも、タレントというのは「毎日就職活動しているようなもの」と言っていました。毎日評価を受けて、自分を良く見せることに立ち向かっているから。就活経験はなくても、あの6人の気持ちは、絶対キャスト自身も持っている感情だと思うんです。ただ、就活独特のあの雰囲気や空気感などがわかると、より舞台に重みやリアリティが出てくると思います。

――拓人にとって、心の拠り所としての演劇という面があると思うのですが、丸尾さんも共感する部分はありますか?

ありますね。演劇って、一月以上も役者やスタッフ、皆で作品に向き合うんで、終わった頃には家族みたいになってる。僕は劇団出身ですが、劇団なんて言いたいことを言い合う若干仲の悪い家族ですよ。今もそんな家族と演劇でご飯を食べていけたらいいなと思って、劇団を続けていますし。

実は僕は就活で内定をもらってから劇団鹿殺しを旗揚げしたので、本当に就職するか悩んだんですよ。親からは「とりあえず就職してみたら。嫌だったらやめたらいいと思う。でもやらないのは食わず嫌いみたいなものだから」と言われて、旅行会社の営業部に入りました。営業自体は得意だったんですが、2年位経って、この先この仕事は僕よりも旅行に使命感を持っている人がやるべきだ、そんな自分がこのまま会社いたとしてもトップにはなれないし、僕は僕の好きな演劇に戻ろうと思って、今に至ります。

――最後に、作品を観た方に、こういうことを感じてもらえるんじゃないか、という点を教えてください。

役としての6人って、特別なギフトを持ってない人たちで、多くの方にとって近い存在なんです。その人たちが、結局は自分という頼りない情けない存在でも、前に進んでいくしかないと認めた時に、一つ大きな階段を昇って見える景色がかわってくる。お客さんが劇場を出たときに、身軽になって飛び立てるような舞台にしたいなと思います。