東京・六本木で開催中の第30回東京国際映画祭で28日、映画『花筐』(12月16日公開)の舞台挨拶が行われ、肺がん闘病中の大林宣彦監督が本作に込めた思いを語った。

左から常盤貴子、大林宣彦監督、窪塚俊介

大林宣彦監督がデビュー作『HOUSE/ハウス』(77)より以前に書き上げていた幻の脚本を40年の時を経て映画化した『花筐』。檀一雄の純文学『花筐』を原作に、戦争の足音が迫る時代を懸命に生きる若者たちの友情や恋を赤裸々に描き出す。

大林監督は自身を「敗戦孤児の世代」といい、「私たちが日本の平和を作らなきゃいけないということで、みんなわけもわからず今までだれもやらなかったことをやりながら生きてきた」と説明。「映画でもプロにはならないで、私は一生アマチュアとして、弱者の立場から自分の個人史、日記みたいな映画を作ってきた」と続け、自身の肩書きが"映画監督"ではなく"映画作家"である理由もそこにあると話した。

舞台挨拶には、主演の窪塚俊介をはじめ、長塚圭史、矢作穂香、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩、岡本太陽も出席。常盤は「なんてやんちゃな監督。こんなに自由に広げてくる監督って世界に今までいたのかなと思うくらい。映画の可能性を広げていただいた」と監督に感銘を受けたいう。窪塚も「(演じた)俊彦は16歳。僕35歳ですからね。キャスティングに関しても自由度がこんなに」と驚いたそうで、同級生役を演じた長塚も「40過ぎてあんな役をやれると思いませんでした」と笑った。

キャスト陣から自由さを明かされた大林監督は、遊びが制限されていた戦時中に感じた不自由さを打ち明け、「自由に遊べることが子供であることの一番の証。戦争が終わったあとは、せめて自分が平和に役立つとするならば、自分が信じる映画くらいは自由に作らせてほしいということで、本当に自由に映画を作らせていただきました」と自由に対する強い思いを語る。

そして、「ブレないで、そういう敗戦少年の思い出をずっと描いてきましたが、どうもそういう映画がまた作れなくなるんじゃないかと怯えております」と将来的な抑圧を危惧。「3年後にこの映画を作ることが許されるだろうか。今こそ自由の尊さを表現したいということでこしらえたのがこの映画です」と語った。