――一方で育成や指導に答えが見つからない時、そういう括りに逃げてしまいたくなる気持ちも理解できます。

そうですね。私もそこに逃げたくなる時はあります。世の中のニュースやテレビ番組もそうですが、世代ごとにネーミングすると分かりやすく、面白くなる。ただ、それは人の成長につながったり、それぞれの在るべき姿につながるとは思えないので、世代で考えることは避けています。もちろん私自身、年齢のギャップを感じることはあります。でも、そんな彼らをどうやって成長させるかをまずは考えます。

――そういう考えもですが、「指導」に関してはずっと自問自答されてきたんですか? 今回のような本を手に取ったり、誰かのアドバイスを求めたりすることはなかったのでしょうか。

全くありませんでした。これまでの自分の仕事が「開拓者」のような役割が多かったからだと思います。道がないところに道を作っていくのはかなりハードです。しかも、そこに名前が残らないと、誰が作ったのか分からない道をいろいろな人が歩くことになってしまうので、きちんと名前も残していきたい。

でも、開拓者であることは決して嫌いではなくて、どうやら人が作った道を楽々と歩きたくないタイプみたいです(笑)。分かりやすく言うと、自分の中に「逆境スイッチ」みたいなものがあって、つらければつらいほど大きなスイッチが入ります。これはきっと、自分の大きな「使命感」からくるものです。以前、別のインタビューで自身の職業を聞かれ、私は「立ち上げ屋」と答えたんですが、「人を育てる仕事」に携わっていたいと思っています。

飲みに行きたくない理由は「私も同じ」

――社会人になる前、管理職とは「偉い人」だと漠然と思っていました。今回の著書では、部下との関係づくりがうまくいかない原因の多くがリーダー側にあって、「リーダーが部下を格下と見なしているせいで関係が深まらない」「上下関係をそのまま人間関係に持ちこもうとすると、なかなかうまくいかない」と指摘されています。ここに気づいたのは、どのようなきっかけだったんですか?

OLを経験したこともあるんですが、今でも周りを見渡すとそう感じます。「格下」と見なしている人、結構いると思いませんか? そこから信頼関係は生まれませんし、何よりも信頼関係ができていない状態のやりとりは、寂しくないのかなと。互いの関係がどんどん希薄化してもったいない。組織や仕事としての上下関係はあってしかるべきだけど、「人として」は一緒、対等なんだと私は思いたい。

Vリーグの監督さんたちにご講演をさせて頂いた時、互いの距離感や世間で言われているセクハラという言葉に戸惑っておられました。そこも関係性がしっかりしていたら、セクハラにはならない。たとえば上司と部下の関係において、上司が課題についてのやり直しを指示した場合、信頼関係があれば部下は「なぜダメだったのか」と前向きに考えます。それがないと、「パワハラだ!」と逃げるしかなくなってしまいます。

――その話にもつながりますが、上司と部下のお酒の交流についてはどのようなお考えですか? "飲みニケーション"とも言われています。

あってもいいとは思いますが、それが全てではないとも感じます。上司側は、部下のことについて社内だけでは分からないことを知ろうとしているわけですよね。これが部下側も「知ろう」とする思いがあればいいのですが、それを部下側が求めてなかったりもする。そんな中でお酒によって距離を縮めようとするのは、正しいとは思えません。本来、指導者にとって大切なことは、距離を保って観察すること。お酒で交流することは絶対ダメということではなくて、それで安易に距離を縮めようとすることに私は不安を感じます。

『教え子が成長するリーダーは何をしているのか』にも書きましたが、「お腹痛いの?」とか「調子どう?」とか簡単な言葉で声を掛けて反応をうかがったり、飲みに誘っても必ず観察したり、そこは絶対に怠ったらダメです。飲みに誘ったときはお互いをさらけ出して交流をはかることもよいと思いますが、飲みに行ったことで部下のことを分かったつもりになったり、信頼関係ができたと勘違いしたりすることはとても危険です。

――ご自身でそのような経験があったんですか?

劇団に所属している頃、先輩から飲みに誘われたら全員が参加していました。それは、飲みの場で座長が演技についてのダメ出しをしてくれるから。私たちはそこにダメ出しを求めていたんです。その後、自分が振付師になって、ある演出家から飲みに誘われた時に「行きたくないな」と思ってしまうことがありました。振付の打ち合わせをやるんだったら、お酒がなくてもできますよね。その時に私が「行きたくない」と思った気持ちは、別に今の若い世代の方々に限った話ではなくて、私も同じなんですよね。「最近の若者は飲みに行かない」と言われる原因は、そこに目的や必要性、興味を見出せないからなんじゃないかな。