――熊野監督とは朝ドラ『あさが来た』以来の再会だったそうですね。演技としても気合いが入ったんじゃないですか?

めちゃくちゃ入ります(笑)。期待以上のものをちゃんとお返ししなきゃと。監督はすごく粘ってくださるんです。光の入り具合や位置で納得できないところがあると「もう1回」。だから、監督がOKをくださったら、安心できるんです。自分の中では大丈夫かなと心配になることもあるんですけど、監督が受け入れてくださったから「大丈夫!」と思えるようになりました。

――期待には十分応えられたと(笑)。

(インタビューを見守っていた熊野監督の方を向いて)どうですか(笑)?

熊野監督:十分応えていただけたと思います(笑)。今回は事前に被爆者の方に会ってもらったり、そういうことも含めて実際に起こったことを吸収して演じてもらうことを大事にして、それを真摯に向き合ってやってくださいました。実はクランクインする前から確信があったんです。こちらの大事にしたいこともすごく理解してくれて、それを感じながら撮れたので放送がとても楽しみです。

――ということだそうです(笑)。

うれしい……よかったー!

一度お仕事をさせていただいた方から「もう1度」と声をかけてくださるのがうれしくて。だからすごく怖くて……よかったぁ……とにかくよかったー! それがやる気のスイッチにもなる反面、ガッカリされたらどうしようとかそういう不安がありました。

――高校生や被爆体験者の方が落胆する心配と、熊野監督含めて再会したスタッフさんが落胆する心配。相当な重圧ですね。

はい(笑)。10日間の撮影でしたが、現場はとても楽しかったです。広島のスタッフさんが多かったので、方言指導の先生もいらっしゃったんですけど、スタッフさんに「この表現で合ってますか?」と確認させてもらってました。それから1日だけ撮影がお休みの日があって、ご飯をご一緒させていただき、そこでいろいろなお話を聞かせていただきました。

――どのようなお話をされたんですか?

照明部さんは、基本的に台本を見て色を決めるそうなんですが、現場のお芝居を見ても判断するみたいです。そんなことも初めて知ることができました。みなさん、ちゃんとお芝居を見てくださっているんです。この流れだったらこっちの方がいいんじゃないかとか、考えてくださっていると聞いて感動しました。

10代の時はなかなかご飯に行ける機会もなかったので、二十歳になってお食事に連れて行ってもらえて、いろいろな方のお話をうかがえて、なんてステキなんだろうと。みなさん、少しでもよくなるように悩みながらやってくださっていたんですね。

スタッフさんって、なんてかっこいいんだろうと。カメラを構えたり、照明を当てたり、音を録ったり、現場にはいろいろな役割の方がいて。みなさんのおかげで作品が出来上がってます。だから私も悩んでる場合じゃない! と。

――対話力。そこでも聞き出すことができたんですね。

すごくいろいろな意味で勉強させてもらえましたし、新しい経験をたくさんさせてもらえました。

現場でお話しすることは世間話程度で、そこまで深いお話はできません。みなさん、お酒が入るとちょっと崩れてくるので(笑)、その人が思っていたことを自然に知ることができて、その時間も私にとってはとても貴重でした。

「クソババア!」を厳しく叱った母の思い

――「役者は演じて終わり」ではないと毎回おっしゃっていますね。そういう視点はどこで養われたんでしょうか。

母が小さい頃からいろいろなことを教えてくれたというのもありますが……ドラマに初めて出演させていただいたのが15歳。こんな15歳相手に、大勢の大人の方々が動いてくださっていたのが衝撃で。大人の方が15歳に「のど乾いてない?」とか「椅子座っていいよ」とか。逆に申し訳なくなりました。

画面に映るのは役者やタレントの表だけ。裏で支えてくれている人がいて作品が完成しているというのは、見ている人には伝わりづらいと思うんです。だからなるべく発信できる立場にいさせてもらっている自分が、できる限り伝えたいなと。そういう感謝の気持ちは忘れないようにしたいです。

――お母さんの教えとは?

「ダメなことはダメ」と教え込まれました。友だちの親子会話を聞くと、時々怖くなるときがあるんです(笑)。なんでそんな口を利けるの?って。私は変なことを言うとすごく怒られてきました。小さい頃、幼稚園か小学校低学年の時にすごく腹が立って、覚えたてだった「クソババア!」って言ったんです。「どんな口たたいてんねん!」ってめっちゃ怒られて……。それから怖くなってそんな口利けなくなりました(笑)。

それから母は、どんなことでも話せる存在です。1回愚痴を受け入れて、共感してくれる。でも、「こんな気持ちだったんじゃない?」と相手の気持ちに立ってみることを勧めてくれます。1回愚痴を言って、一緒に発散した上でのことなので、そういう母の意見はこちらも素直に受け入れられます。

――お説教ではなく、会話になっているわけですね。

そうなんです。ちゃんと話を聞いてくれます。

目上の方を敬いなさいとか厳しく言われましたし、自分がやられて嫌なことは人にするなと言われて育ちました。今でも「言葉遣い」を怒られます。文字になると伝わり方が変わってしまうことあるじゃないですか? 捉え方によっては、違った印象で載ってしまう時。会話の中の一言が見出しになってビックリしたり(笑)。

――すみません。そうならないように、日々気をつけています(笑)。

いえ! 私が気をつけなきゃいけないことなんですけど。私は母に言い訳をしちゃうんですよね。こういう流れがあって言ったことだと。そこでも母は、違う立場の人の視点から意見してくれます。そうやって日々、怒られて勉強しています。

――相手の立場を常に考えるという点でいえば、今回のドラマはぴったりの役ですね。人との対話がテーマでした。

そう言ってもらえてうれしいです。

お芝居をやらせてもらえたからこそ、いろいろな人に支えられていることを知ることができます。『ふたりのキャンバス』でお食事をご一緒させていただいた時もそこでいろいろな立場の方のお話を聞いて、これだけたくさんの方が悩んで支えてくださっているということを知ることができました。主演をやらせてもらったからこそ、より感じたというか。主演だから偉いとかではなくて。

近藤さんだったり、中村ゆりかちゃんだったり、いろいろな人がいて、いろいろな人が私のことをよく見えるようにとか、支えてくれているんだということをすごく実感させてもらえました。この気持ちは忘れないようにしたいですし、主演じゃなくてもその気持ちを忘れず、自分がやってもらったように私もできるようになりたい。役としてもちゃんと支えられるような人になりたいです。

■プロフィール
小芝風花(こしば・ふうか)
1997年4月16日生まれ。大阪府出身。2011年「ガールズオーディション2011」でグランプリを獲得。2012年にドラマ『息もできない夏』(フジテレビ系)で女優デビューを果たした。初主演映画『魔女の宅急便』(2014年)での演技が評価され、第57回ブルーリボン賞・新人賞を受賞。NHK連続テレビ小説『あさが来た』、『早子先生、結婚するって本当ですか?』(16年・フジテレビ系)、『下剋上受験』(17年・TBS系)、『マッサージ探偵ジョー』(17年・テレビ東京系)、8月4日スタート『伝七捕物帳2』(NHK BS時代劇)にレギュラー出演。9月23日から舞台『オーランドー』に出演する。