20kmを過ぎたところで乳首が取れそうになる
20kmを進んだくらいで、体の一部に違和感が生まれてきた。
乳首が痛い。
Tシャツがすれてヒリヒリするなあと思っていたが、バランスを崩して手が胸をこすったときに激痛が走った。いってえ……!
たとえ乳首が痛くても、リタイアするような痛みではない。なるべく考えないようにしながら走っていると、ようやくスタート地点あたりが遠くに見えてきた。スタート地点まで走れば30km。そこまで走ればよくやったと言えるだろうと、やる気がみなぎってきた。
行きに通った海岸線から、ウォーターウェイズ・ドライブに入り、ゴールド・コースト・ハイウェイに合流してからナラン川を渡る。スタートに時はまだ朝だったが、気が付くともう昼。雲1つない青空ではさすがに日差しが強く、ウォーター・ステーションの水がなければ倒れてしまいそうだ。
ゴールド・コースト・ハイウェイを進み続け、何とか30kmを通過。しかしここで、ここまで走ってこられたんだから、あと10kmちょっとくらい行けるんじゃないか? むしろここで止めるのは悔しいんじゃないか? という思いがわき上がってきたので、マラソンを続行することに。
リフレッシュメント・ステーションで配られたエナジージェルを流し込み、残り12kmちょっとに備える。ここからはゴールド・コースト・ハイウェイを北に約6km進んで折り返し、スタート地点に戻ってくればゴールだ。ここまで30kmも走ってきたんだ。残り10kmなんて余裕余裕。
30kmを走ると、足に激痛が走る
31km以上先に進んでいくと、反対車線には間もなくゴールというランナーがたくさん帰ってきている。自分もあと1時間もすればそっち側にいけるんだなあ、と考えていると、左足の土踏まずに痛みが走った。
「何か石でも踏んだのかな」と思ったが、痛みはどんどん増していく。そのうち前に進むことが苦痛になってきた。痛すぎて崩れ落ちそうだ。まだ33kmで残り9km以上あるのにこれはまずい。
左足が痛むと、心も折れてくる。「まだ折り返しじゃねえのか……」「1kmってこんなに遠いのかよ」とぽろぽろと弱音が漏れてきてしまった。周りの観客に対しても、これまでは「こんな私に声をかけてくれるなんて優しい人なんだろう」と思っていたが、「こいつら走ったこともねえのに、よく『頑張って』なんて言えるな」と心が腐っていった。今となっては、なんて失礼な考えだったろうと猛省している。
35kmを通過し、折り返しへ向かう道がより遠く感じた。足も痛いし、このまま走りきれる気がしない。もう諦めてしまおう……。ここまで頑張ったし、出張を命じた課長も許してくれるだろう。諦めようとしたその時、オーストラリアを満喫した思い出が蘇ってきた。
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だめだあ!!!!
オーストラリアを楽しんでマラソンはリタイアしました、なんて報告できない。35kmも走ったんだし、絶対完走しよう。そうすれば胸を張って帰国できそうだ。
何とか気持ちを立て直した矢先に、折り返し地点が見えてきた。やっと最後の折り返しだ。残りを走りきれば終わる。最後のルートは美しい海岸線とゴールドコーストの街並みを眺めながら走るルート。ここで改めて、この街の美しさを知れた気がする。
痛みが増し、感覚が麻痺してくる。恐らく終わったころには、もう足は使えないだろう。それでも残り5km、4kmとゆっくりと距離を縮めていく。40kmを越えたあたりからは、周りの人からの応援が身に染み、元気をもらった。
足を引きずりながらも、とうとうスタート地点に戻ってきた。ここからゴールのためのルートが用意されており、42kmを通過した先には観客が待っている。そこまで走りきれば、完走……!
42.195kmのゴール! そして人生初の金メダル
マラソンに参加するまでは、42.195kmは現実感がなかったが、その距離が壮絶なものだと体で理解した。
完走したランナーたちには、メダルが授与される。筆者も完走を果たし、金色に輝くメダルを受け取った。人生初めての金メダルだ。それを手にした途端、これまでの辛さや痛さがすべて報われたかのような気分になる。
「ゴールドコースト・エアポート・マラソン」を実際に体験してみた感想としては、勾配が少なく、初心者にとって走りやすい道のりだったと思う。そして、美しい海岸線を眺めながら走ることができ、絶景の中を走る気持ちよさもあるだろう。
初めて挑戦したフルマラソン。ペースを保てば走り続けられることが分かったが、体力と心を維持し続ける修行のような競技だと分かった。またフルマラソンに挑戦したいか? と聞かれると言葉を濁すかもしれないが、せっかくランニングシューズを買ったことだし、皇居ランでも始めてみようと思う。
ちなみに痛めた左足は、日本の病院でレントゲンを撮ったら捻挫していたことが分かり、1カ月は走らないでくれと言われた。原因は、慣れない靴を履いたからだそうだ。読者諸君がマラソンに挑戦するときは、事前準備を怠らずに挑んでほしい。
次回の「ゴールドコースト・エアポート・マラソン」は、2018年6月30日と7月1日。エントリー開始は2017年の12月上旬を予定している。