静岡県南伊豆町では、「風景を切り取ってお菓子にします」という唯一無二なコンセプトをもとに身近な景色が"菓子化"されているという。できあがった菓子の名前は、「縄状溶岩」「鉢窪山スコリア」「砂嘴」「伊豆石擬灰岩」と、およそ食べものとは思えない名前ばかりだが、どんな材料で何を目的に作られているのだろうか。

販売中のジオ菓子一覧。圧巻! (ジオガシ標本BOX 2017/9ジオ入り/税込3,000円)

「うまそうだな」と思ったのがきっかけ

そのわけを説き明かしてくれたのは、「ジオガシ旅行団」を運営する鈴木美智子さん。鈴木さんによると、「ジオガシ」とは漢字にすると「ジオ菓子」で、地球、大地を意味するジオ(Geo)を菓子で表現しているのだという。

「ジオガシ旅行団」代表の鈴木美智子さん

なぜそんなことを思いついたのかというと、「伊豆の景色を見ていたら、うまそうだなと思ったんです」と予想外の答え。かと思えば今度は、「2011年にジオパークを通じて『景色は雄弁に自分の素性を語っており、こちらがそれなりの知識を持ってみるとその意味が見えてくる』ということを知り、感激したと同時に衝撃を受けたんです」と、熱い胸の内を披露する。

伊豆の景色に見事に類似!

2011年と言えば、伊豆一帯の13の自治体や静岡県、各種団体などが協力して「伊豆半島ジオパーク推進協議会」を設立した年。さらにその翌年には、伊豆半島ジオパークは日本ジオパークネットワークへの加盟が認められているが、ジオガシは地域活性化に大きく貢献しているに違いない。

実際、「ジオ菓子」誕生の裏に、「この感動をみんなと共有せねば! 」との想いがあったという。だからこそ、伊豆の溶岩や砂嘴、土石流などを模した菓子を作って大好きな伊豆の景色をみんなにPRすると同時に、「興味を抱いた人が実際に現地に行きやすいように」とmapまで添付した「お菓子付き体験ツール」という、斬新なスタイルを思い付いたのだろう。

ジオ菓子にはmapが付いてくる

おいしさにも妥協はしない

そうした特製がある以上、原料にもこだわるのは当然のこと。なるべくその大地の成り立ちに関連のある地元の特産品を使用して、地質だけでなく文化や歴史にも通じるストーリーが見えるよう工夫している。さらに、「見た目だけでは人に感動してもらうことはできません。だから、賞味期限が短くなることが分かっていてもバターを使用し、手間を惜しまず作ることで、おいしさも大切にしています」と、味や形状にも気を配っているところが心憎い。

しかし、あまりに手間暇かけているせいか、「店頭に並べた商品を見て石かと思って素通りされる方が多いんです」と明かす。そんな時に後ろから小声で「お菓子ですよ」と伝えると、二度見してびっくり&面白がってくれるのだとか。

さらに、最近では学会でも販売しているそうで、2013年から出店している日本地球惑星連合大会では、火山や地質、惑星科学などの専門家にも人気なのだとか。これには鈴木さんも、「専門家もうなる再現率を目指していたので、がんばって似せて良かったと思っています」と満開の笑み。加えて、「時々、販売ブースの前で笑いが止まらなくなるお客さまがいたり、かと思えば『変態! 』と褒めてくださるお客さまもいたりするんですよ」と、ユニークなエピソードまで明かしてくれた。

キッチン教室で自然を愛する心を育む

また、地域の子どもたちを対象に開いている「ジオガシキッチン教室」では、小学生と一緒に座学で地元の成り立ちを学んだ後、火山灰に見立てた生地にゴマを混ぜたり抹茶の粉を振りかけたりして、石や地層の色合いを再現することがあるのだとか。

子どもたちにも大人気の「ジオガシキッチン教室」

焼き上がったお菓子を食べる子どもたちは、大満足の笑顔を見せてくれるというが、こうした体験も、自分たちを育んでくれた美しい自然を守ろうという想いにつながるのだろう。

ジオガシキッチン教室を通じて、自然への意識もうながす

ちなみに、ジオガシ旅行団は創設6年目を迎えるが、2016年からは全国にネットワークを展開しているため、今後は伊豆以外の風景がジオ化されることも期待される。

これまでにも、ジオガシ持参ツアーなどさまざまな楽しい試みを行っている旅行団の今後はますます楽しみ。「身近な景色がジオ化されたら、ぜひかわいがってくださいね」と鈴木さんからメッセージも。でもその前に、まずは鈴木さんが「うまそう」とよだれを垂らした伊豆の風景に会いに行くのも一手。もちろん、その際はジオ菓子片手に現地散策を楽しんで!

今後のツアーの予定は「ジオガシ旅行団」webサイトを要チェック!