イー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパン(以下EF)は11月17日、「国別英語能力指数 EF EPI 2016」の結果を発表した。同日、東京・六本木のスウェーデン大使館で行われた記者発表会では、日本における英語教育の現状と2020年東京オリンピックに向けた対策の必要性が報告された。
上位を北ヨーロッパ各国が独占
EFは留学・語学教育事業を展開する私立教育機関「イー・エフ・エデュケーション・ファースト」の日本法人。スウェーデンで設立された同機関は、2011年より世界最大の国別英語能力指数レポートを発表している。
第6回となる2016年調査では、「オランダ」が72.16ポイントでランキング1位を獲得した。2位は「デンマーク」(71.15ポイント)、3位は「スウェーデン」(70.81ポイント)、4位は「ノルウェー」(68.54ポイント)、5位は「フィンランド」(66.61ポイント)と、北ヨーロッパが上位を独占する結果となった。
イー・エフ・エデュケーション・ファースト 教育部門常務取締役兼ケンブリッジ大学 EF 研究チーム責任者のDr. クリストファー・マコーミックは、今回の調査結果を次のように分析する。
「非常に高い英語能力を誇る北欧では、子供が小さいうちから英語学習を始める。また、アニメが吹き替えではなく英語のまま放映されるなど、子供が日常的に英語に触れる機会がある。これらの国では多言語の文化が浸透しており、英語は国民性(母語)への脅威となる存在ではない」(Dr. クリストファー・マコーミック)
アジアではシンガポールが奮闘
アジア諸国では、昨年から大きくスコアを伸ばした「シンガポール」(63.52ポイント)が6位にランクインし、アジア1位に。高い英語力を有する上位グループにアジアで初めて入る好成績を記録した。
アジア2位は「マレーシア」(60.70ポイント/全体12位)、3位は「フィリピン」(60.33ポイント/全体13位)だった。このほか、「香港」(54.29ポイント/全体30位)、「中国」(50.94ポイント/全体39位)、「タイ」(47.21ポイント/全体56位)は前回から大きくスコアを伸ばす結果となった。
「アジアのランキングは、非常に高い英語能力から非常に低い英語能力まで幅広く分布している。アジアトップのシンガポールやマレーシア、インド、フィリピンなどのように、歴史的に大英帝国と結びつきが強い国は日常的に英語を使う機会が多い。日本はビジネスで使うことはあっても英語が日常にはそれほど結びついていないので、前述の各国と比べると能力に差が出ている」(Dr. クリストファー・マコーミック)
"ビジネスの中心世代"の英語力を伸ばすことが重要
日本の成績は51.69ポイントで35位。昨年の30位から5位下がり、調査開始からの6年間で英語能力が低下していることが明らかになった。Dr.クリストファー・マコーミックは「日本の英語力は低下傾向にある」とし、特に30~40代の英語力の低さに警告を鳴らす。
「世代別に見ると、18~20歳ぐらいの若い世代が一番英語力が高い。一方、若者と比べると日本の40代は随分低い。これは生涯学習としての英語教育や、会社での英語教育が十分でないことを示す懸念事項だ」(Dr. クリストファー・マコーミック)
「ビジネスの中心となる40代の英語力が低いと、グローバルなビジネスチャンスを逃してしまいかねない。日本は科学技術分野などへの研究開発に非常に多額の投資を行っているが、世界と比べると、研究開発への投資額と英語習得度に大きな差がある。英語力がないと、いくら研究開発をすすめたところで世界に広く行き届かない。それは機会損失につながるといえるのではないか」(Dr. クリストファー・マコーミック)
2020年東京五輪は目前、日本の英語力をどう向上させるべきか
また、4年後に控えた2020年東京オリンピックについて、Dr.クリストファー・マコーミックは「日本における英語教育の大きな節目となる」と推測する。
「今、日本は2020年東京オリンピックの開催に向けてさまざまな準備しており、国にとって重要な段階にある。オリンピック開催国では、『どうやって世界とコミュニケーションを取るか』が重要になり、語学学習への関心も高まる。公の政策に英語教育促進へのプレッシャーを与える良い機会にもなるだろう」(Dr. クリストファー・マコーミック)
記者発表会に登壇したパラリンピアンの谷真海さんは、1人で海外遠征をすることもあり、「他国の選手とコミュニケーションが取りたい」と考えて英語を勉強したそう。「英語を勉強したことで、世界が広がったと感じる。言葉がわかることでトラブルにも動じなくなるので、アスリートとしての記録も伸びていった」と語る谷さん。走り幅跳び選手としてアテネから3大会連続でパラリンピックに出場した彼女は、トライアスロン選手に転向し2020年の東京パラリンピック出場を目指すという。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会スポークスパーソンの小野日子さんも、「オリンピックは日本にいながら世界と触れ合える貴重な機会。『自分はどのように大会に関わるか』を考えてほしい」と熱弁する。
「2020年東京オリンピックは非常にたくさんの人が日本に来る機会。大会ボランティアとして約8万人、観光などの都市ボランティアで約1万人と、計9万人にお手伝いいただく。ボランティアをしていなくても、オリンピック期間中は街に出ればたくさんの外国の人と接触する機会があるだろう。そのためには、英語学習のモチベーションを高めていくことが重要になる」(小野日子さん)
「大会成功の鍵は『レガシー(遺産)を残せるか』にある。1964年の東京オリンピックでは、首都高速道路などの『ハード』なレガシーがたくさん残った。2020年東京オリンピックは、国民の英語力向上など『ソフト』なレガシーが残る、プラスの影響を与える大会になればと思う。コミュニケーション能力がアップできる機会になれば、成功したといえるのではないだろうか」(小野日子さん)