銚子と聞いてすぐに場所をイメージできるだろうか。う~ん、というは"チーバくんの耳"と覚えておいていただきたい。東京駅から銚子駅までは特急「しおさい」で約2時間。そしてその銚子駅は銚子電鉄の入り口でもある。全駅巡っても20分という短い路線ではあるが、それぞれの駅には趣がたっぷりだ。

銚子電鉄は通称"銚電"。銚子駅の2,3番ホームに駅舎がある

銚電旅を後押ししてくれる弧廻手形も

端となる銚子駅=外川駅間は6.4km。頑張って歩けば歩けなくもない距離ではあるが、昔も今も、地元民の心のよりどころとして、"銚電"は愛されている。車窓から眺めるキャベツ畑も、単線の線路も、初めて銚子を訪れた人であっても、どこか懐かしさを感じる風景がそこにはある。

電車の中にもいろんな気づきがある

キャベツ畑を越えて

単線は続く

また、9つの駅舎もそれぞれ魅力を放っている。銚子駅はオランダの風車風、観音駅はスイスの登山鉄道風、君ヶ浜駅は凱旋門風のゲートを備え、犬吠(いぬぼう)駅はポルトガル風。終点となる外川駅は木造駅舎になっており、漁師町の空気が降り積もっている。途中下車しながら一駅一駅味わいたいところがだが、いかんせん、ローカル線だ。次の電車は1時間後、ということもあるので、計画的に旅を楽しむようにしよう。

銚子駅の駅舎

観音駅の駅舎

パスモなどのICカードは使えず、切符は銚子駅を除く有人駅もしくは車内で車掌から購入する。周遊旅をする人は、1日乗車券「弧廻手形」(大人700円、小児350円)を購入しよう。運賃が割安になるほか、犬吠駅内で販売している銚子電鉄名物「ぬれ煎餅」が1枚もらえるなどのサービスも付いている。さらに、犬吠駅が最寄りの「地球の丸く見える展望館」に行くなら、特典付き1日乗車券「弧廻手形Deluxe」(大人1,000円、小児500円)がお得だ。

銚子電鉄の切符

周遊するなら1日乗車券「弧廻手形」を

"美人車掌"のオススメ風景は1,2秒

レトロな駅舎と電車で知られる銚子電鉄だが、"美人車掌"がいることでも話題になっている。その人・袖山里穂さんは、銚子生まれ銚子育ちの"ど・銚子人"。とってもきさくな方で、地元の方々と自然に会話を楽しまれていた。そんな袖山さんに銚子電鉄の味わいどころをうかがってみた。

"美人車掌"で話題の袖山里穂さん。「いやいや、そんな……」と謙遜される姿もかわいらしい

「犬吠駅で降りて『犬吠埼灯台』や『地球の丸く見える展望館』がオススメです。ただ、灯台と展望館は駅をはさんで逆方向にあるんですよね。でもぜひ、両方行ってほしいです。レトロな駅舎の外川駅まで行って、漁師町の雰囲気を味わったらまた折り返して銚子駅へ。これで"銚電"旅は十分味わえると思いますよ」(袖山さん)。

短い区間では1分間隔で出発・到着となるため車掌は忙しい

電車の中ではお土産の販売も。「切符お守りストラップ」(税込100円)は袖山さんも愛用

そんな袖山さんに、電車から見える好きな風景を聞いてみたところ、観音駅から本銚子駅へ向かう左の車窓からの風景とのこと。観音駅を出てすぐの、そして1,2秒という一瞬の風景だ。駅のそばには木が立ち並んでいるが、一瞬、視界が開けるところがある。銚子の街を一望できるその風景は、銚子で生まれ育った袖山さんにとってもなじみ深い、愛すべき銚子の姿なんだろうなと感じた。

筆者:「この風景ですかね? 」、袖山さん:「そうそう、ここです」という1枚。本当に一瞬なので見逃してしまうかも

"漁夫のプリン"は縁起もよし

車窓から電車の影が入り込んだキャベツ畑を眺めながら、まずは海鹿島(あしかじま)駅で途中下車。この駅は関東最東端の駅(北緯: 35度43分18.4秒、東経: 140度51分48.8秒)であり、周辺には竹久夢二の詩碑や銚子出身の国木田独歩の碑などがあるので、文学碑巡りをするのもいいだろう。駅から徒歩2分のところには「あしか寿司」という寿司屋もあるので、ここでお昼の小休止をするのもありだ。

この日の「地魚にぎり」(吸いもの付き/税込2,490円)は、メバチマグロ、シメサバ、カレイ、マダイ、ボタン海老、赤ムツ、コウイカ、タコ、そして伊達巻寿司

銚子グルメと言えばやはり新鮮な魚だが、銚子名物の寿司に"漁夫のプリン"と称されているものがある。今回いただいた「地魚にぎり」(吸いもの付き/税込2,490円)の中で、一際目立つ伊達巻寿司がそれだ。細工寿司のひとつなのだが、見た目はもちろん、その食感にもきっと驚くはず。滑らかで甘く、「プリンとはうまいこと言ったな」と思ってしまうほどである。

吸いものには、歯ごたえのある銚子の特産品「のげのり」を使用

"漁夫のプリン"という名称は10年ほど前、街のイベントの一環で命名されたもののようだが、寿司そのものの歴史は約100年前の明治初期と長い。漁夫たちの活力となる甘い食べものとして誕生したのが始まりで、その後、銚子市内の寿司屋に製法が伝授されたという。厚焼き玉子のように巻かれた形跡はなく、どのように焼いているの不思議に思っていたところ、店主が「釜で焼くんだよ」とこっそり教えてくれた。プリンのようにつるんとした表面に仕上げるには、よほど技術が必要なんだろう。

伊達巻寿司はひとつ税込330円。持ち帰りもOK

わさびを載せればお酒のつまみにも

「材料は卵と出汁と砂糖のみ。器用な人なら家庭でも作っているかもだけど、地元の人も正月や祝い事では寿司屋で購入しているよ。扇形は末広がりで縁起がいいからね。最近では、この伊達巻をお土産に買って帰る観光客もいるかな」(店主)。

釜でじっくり焼いた後は扇型に成型

もちろん、銚子港でとれた新鮮な魚が味わえる魅力も大きい。ていねいにあぶられた赤ムツも、飲み込んでしまうのがもったいないほど。秋~冬にかけてはマダイやシメサバがオススメとのこと。どんなネタが楽しめるかはその日の仕入れ次第となるが、店主に銚子の魚事情も教えてもらいながらかみしめてみるといいだろう。

店主と会話をするのも楽しいひと時

ちょっと面白いと思ったのが、醤油が2種類あることだ。ヤマサ醤油とヒゲタ醤油はともに、銚子に工場を構えている。「銚子に2社あるんだから両方そろえておかないと。それぞれ味わいが違うんですよ。好みの味で楽しんでもらいたいなと思って用意しています」と店主。そうしたところも銚子スタイルなのかもしれない。

ヤマサ醤油とヒゲタ醤油、両方そろっているのが銚子風なのかも。街中には両ブランドの椅子が並んでいることも

●information
あしか寿司
住所: 千葉県銚子市小畑新町8499
営業: 11:30~21:00
定休日: 月曜日(祝祭日は営業)
アクセス: 銚子電鉄「海鹿島駅」から徒歩2分

しっかりランチを楽しんだら、また銚子電鉄に乗って今度は犬吠駅へ。地球が丸いことを実感できる絶景スポットにも足を伸ばしてみよう。