標高1,100mの山上に位置し、境内一帯が雲や霧に包まれることが多い埼玉県秩父市の「三峯神社」は、その神秘的な雰囲気と秘境のような場所から"関東最大のパワースポット"とも言われる。同神社へは東京近郊からギリギリ日帰りも可能だが、宿坊(宿泊施設)に一泊し、絶景も楽しめる三峯神社奥宮の登拝にもチャレンジしてみた。
"一度食べたら忘れられない"B級スイーツ
三峯神社へは、車なら関越自動車道の花園インターから「皆野寄居バイパス」経由でおよそ1時間半。バスは西武鉄道の「西武秩父」駅か、秩父鉄道の「三峰口」駅から出ているが、本数が少ないので注意が必要だ。今回は、秋色に染まり始めた山あいの景色の中をドライブしながら向かうことにしよう。
国道140号を走り秩父市役所付近に差し掛かると、左手の車窓には秩父の名峰・武甲山(標高1304m)が見えてくる。この山は石灰石でできていることから、セメントの生産のために山頂部分が削られ、見た目が大きく変わってしまった山としても知られる。
さて、このまま「道の駅 あらかわ」を目指して車を走らせよう。「道の駅 あらかわ」に隣接するレストラン「鈴ひろ庵」には、以前から一度食べてみたいと思っていたソフトクリームがあるのだ。その名も「行者にんにくソフトクリーム」(税込380円)といい、行者にんにくの葉から作ったタレとパウダーがたっぷりとかけられた、ご当地B級スイーツだ。
「一度食べたら忘れられない味」というキャッチで売られているので、ドキドキしながら食べてみたが、思いの外、クセがない。行者にんにくには、疲労回復に効果のあるアリシンやビタミン類、カルシウムなどの栄養素がたっぷり含まれているので、旅の英気を養うのにもピッタリだ。
ダムの上を走って
ここから先は、深山幽谷とも言うべき風景の中を走って行く。道路標識に行き先が「大滝」と表示されているが、これは2005年に秩父市・吉田町・荒川村・大滝村が合併して現在の秩父市ができたためで、三峯神社は旧大滝村に位置する。
三峯神社への道のりでちょっとスリリングな気分を味わえるのが、「二瀬ダム(秩父湖)」の天端(てんば)を通る道。一車線交互通行の細い道で、路線バスもこの道を走る。ダムの上を走るというのは、なかなかできない体験だ。ダムを超えるとS字カーブが続き、どんどん標高が上がっていく。都心ではまだ暑さも冷めやらぬ9月下旬だというのに、道沿いの木々はすでに紅葉しかけていた。
神秘的な霧に包まれた境内
三峯神社駐車場に到着したなら、石段を上り、珍しい三ツ鳥居(みつとりい)をくぐって参道を歩いて行こう。参道の先には、日本武尊(やまとたけるのみこと)の銅像が立っている。
社伝によれば今から1,900年ほど昔の神話時代に、日本武尊が東征の折にこの場所に立ち寄り、国の平和を祈願してイザナギとイザナミの二柱の神様をおまつりしたのが三峯神社の始まりだという。境内を歩いていると、そこかしこにオオカミの像がまつられているのに気付くが、このオオカミは「御眷属(ごけんぞく)」さまと呼ばれる神さまのお使い。日本武尊をこの地に導いたのが、白いオオカミだったとされる。
古くから、この御眷属さまを御札として一年間拝借し、一年後にお返しして、また新しい御眷属さまをお借りすることが行われてきており、このような"御眷属さま信仰"こそが三峯神社の信仰の中心なのだ。特に、江戸の大半を消失した「明暦の大火(1657年)」の際、三峯山の御札が貼られていた家は燃えなかったという話が広まると、火除け・盗賊除けにご利益ありと、益々厚く信仰されるようになったという。
社殿を参拝し、宿坊「興雲閣」に宿泊
三峯神社の境内は、年間を通じて霧に包まれることが多い。この白い霧こそが山の霊気であり、日本武尊を導いた白いオオカミ(御眷属さま)、そのものなのだろう。白く立ちこめる霧に導かれるように参道を奥へと進むと、やがて拝殿に到着する。2001年から2004年にかけての修理で見事な色彩が蘇り、細部の彫刻の美しさなどはまるで日光東照宮の陽明門のようだ。
拝殿から社務所の前を通り、その隣にある六階建ての宿坊「興雲閣」に向かおう。部屋は10畳(3~5人用)と25畳(15~18人用)の2タイプがあり、いずれも和室だ。宿坊なので部屋ごとのトイレや風呂はないが、かなり広めな大浴場がある。2016年9月現在、天然温泉での営業は休止中で、沸かし湯で対応しているが、通常は消化器病、婦人病、神経痛、疲労回復などに効能があるとされるナトリウム-塩化泉の天然温泉「三峯神の湯」に浸かることができる。
温泉をゆったり楽しんだ後は、山菜やキノコ、川魚を中心とした夕食のお膳に舌鼓を打とう。窓の外には漆黒の闇が広がり、都会では味わうことができない静けさに包まれている。
翌朝は朝食後、奥宮を目指すことにする。まずは、日本武尊の銅像のそばにある奥宮の遙拝殿に立ち寄ってみよう。