映画監督に、出演役者の印象を伺っていく「監督は語る」シリーズ。今回とりあげるのは、林遣都(25)だ。映画『バッテリー』(07)で鮮烈な印象を残し、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞、キネマ旬報ベスト・テンなど多くの新人賞を受賞。

近年ではNHK総合放送90年大河ファンタジー『精霊の守り人』(16)、Netflixドラマ『火花』(16)などの注目作に出演し、ドラマ『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(16)では犯罪者でありながら主人公にアドバイスを送る精神科医役で話題となった。最新映画『にがくてあまい』では、ゲイでベジタリアンの高校教師・片山渚を演じる。

草野翔吾
1984年生まれ、群馬県出身。早稲田大学社会科学部在学中より映画制作を始める。在学中に監督した長編映画『Mogera Wogura』(07)は、学生映画ながら一般劇場で上映され、話題を呼んだ。2012年に公開した長編映画『からっぽ』が、第4回沖縄国際映画祭パノラマスクリーニング部門や第27回高崎映画祭"若手監督たちの現在"を始め、国内外の映画祭で上映されている。

林遣都の印象

林さんは職人肌、役者魂という感じですね。考えて積み上げて固めてくるので、お芝居がぶれないんです。今回はやっぱり、ゲイであること、ベジタリアンであることをどう演技に見せていくか、かなり迷われていた様子だったんですが、撮影の時にはもう"渚"像ができあがっていました。

役作りについては、林さんとプロデュサーと一緒にゲイバーに行って、話を聞かせてもらったりもしました。ただ、ゲイの方やベジタリアンの方の観察をしてモノマネをしてもしょうがないし、失礼です。寄りどころにするのは、人や食べ物を好きになる気持ちで、その気持ちに向き合っていけば、自ずと認めてもらえるのではないかと話し合うことができました。

撮影現場での様子

とにかくストイックですね。初日にバーのシーンを撮影していたのですが、ヒロインの川口春奈さんを撮っている時もずっと林さんがモニターの横にいて、撮影の意図も聞いてくれるんです。初めて一緒にやるし、林さんも僕がどう撮るのかわからないので、見ようとしてくれたのかなと思いました。自分さえよければ、ということではなく、作品全体がどういうトーンなのかを考えてくれる役者さんです。

また、渚という役は身だしなみにも気を使える人で、料理をするにあたっても丁寧に道具を扱い、他人のこともちゃんと見ている人だろう、と共有して撮影を行うことができました。渚が料理をするシーンも、林さんが本当に練習してきてくれたので、ぜひ注目して下さい。

映画『にがくてあまい』でのおすすめシーン

林さんと、川口さん演じるマキの父親役である中野英雄さんが、2人で軽トラで話すシーンですね。原作コミックの渚という人物がいて、実写化をする我々はそのキャラクターに近づいていくしかないんですが、あのシーンを撮った時に、実写の渚はどういう人物なのかわかったんです。

現場では少し試行錯誤をして、テストで方向性を変えたのですが、そうしたら渚の像が浮かび上がってきました。すごく感激して、撮り終わった後、林さんに飛びついたのを覚えています(笑)。

(C)2016映画「にがくてあまい」製作委員会