一般社団法人 日本損害保険協会は9月5日、「地震保険制度創設50周年記念フォーラム」を開催した。ゲストに2016年度地震保険広報活動イメージキャラクターを務める高良健吾さんも登場した。

左から、一般社団法人 日本損害保険協会の北沢利文会長、高良健吾さん、一般社団法人 日本損害保険代理業協会の岡部繁樹会長

地震保険の歴史は?

第一部では、「地震保険の歴史と今後の課題」について、財務省大臣官房総括審議官の太田 充氏が解説した。

財務省大臣官房総括審議官の太田充氏

もともと地震保険は1890年、商法に民間保険として規定されていた。しかし、地震は発生頻度や被害の大きさを統計的に把握できないため保険制度の前提である「大数の法則」が成り立たないこと、損害保険会社が抱えきれないほどの損害額になる可能性があること、発生するリスクが高い地域の人だけが加入する逆選択の恐れがあることから民間のみでは保険化が困難とされ、1899年商法大改正時に民間保険から削除された。

その後1964年の新潟地震発生により、地震保険制度導入に向けた議論が開始され、1966年6月に官民共同の地震保険制度が誕生した。

地震保険制度は創設後、巨大な地震の発生のたびに商品性の改善を図っている。

例えば、1995年阪神・淡路大震災の保険金支払額は、当時過去最高金額の783億円。一方、震災前の兵庫県の世帯加入率はわずか2.9%だった。大半の被災者が補償を受けられなかったことから、商品性の向上について民間が広報活動を開始したという。その後、2015年の世帯加入率は29.5%まで上昇。2011年東日本大震災では、保険金支払額は過去最高の約1.3兆円となった。

さらに2017年1月には、地震保険制度が改定される。保険金額に対する保険料の割合を、最終的に19%引き上げる予定となっており、第一弾として2017年1月に5.1%引き上げる。損害区分は、これまでの全損、半損、一部損の3区分から、半損(50%)を、更に小半損(30%)と大半損(60%)に分割し、4区分へ変更となる。さらに、民間から東日本大震災で多額の保険支払いがあったことから、準備金の残高が減少したため、民間責任額を減額するという。

今後の課題について、太田氏は「1点目は商品性の問題。これまで大地震の発生時や、加入者のニーズ、地震リスクをふまえて見直しを行ってきました。今後も同様の見直しを継続していくことと同時に、未加入者にも興味をもってもらえるように、地震保険内容を更にわかりやすく、魅力的な保険にする必要があります。2点目は制度・運営の問題として、持続可能性あるいは強じん性をより一層確保すること。最新の地震学の知見やテクノロジーの進展を利用して、地震リスクを適切に把握していくことが必要です」と指摘した。

地震保険の必要性を消費者に理解してもらうには?

イベントの後半では「これからの地震保険を考える」をテーマにパネルディスカッションが行われた。モデレーターを務めたのは、一橋大学国際・公共政策大学院経済学研究科の佐藤主光教授。また、パネリストには、関西大学社会安全学部の河田惠昭特別任命教授、生活設計塾クルーの清水香取締役、谷地保険事務所の榊原昌宏代表取締役、日本損害保険協会の鈴木毅常務理事が登壇した。

一橋大学国際・公共政策大学院 経済学研究科の佐藤主光教授

佐藤教授:自分の住んでいる場所は大丈夫だと、人というのは起こってほしくないと思うことを起こらないというふうに思いがちです。そこで、皆さんに「消費者に、地震リスクを正しく評価し備えの必要性を実感してもらう方法」について、伺いたいと思います。

(左から)関西大学社会安全学部の河田惠昭特別任命教授、生活設計塾クルーの清水香取締役、谷地保険事務所の榊原昌宏代表取締役、日本損害保険協会の鈴木毅常務理事

河田特別任命教授:自分が最悪の事態に陥ったときに、我が家の経済状況がどうなるのか、ということを想像し積算することから始めることが大事です。仕事やボランティアで東北に行ったときに、新築の住宅が引き渡して一週間で津波がきて、全壊になってしまった方がいました。地震保険に入っているかどうかで、先の見通しを持てるかどうかが変わると思います。

榊原代表取締役:日本は過去にも多くの地震が発生していると、歴史が証明しています。私は東日本大震災のときに、岩手県陸前高田市に避難し、隣の宮城県気仙沼市の方の空は真っ暗の中が赤くなり、火災が発生しているのを見ました。多くの木造住宅が密集する地域では火災発生の危険があると思うのでその注意をしていただきたいです。

鈴木常務理事:国民の中で地震の恐ろしさをきちんと共有する必要があるのではないかと思います。交通事故や住宅の火災については教育普及していると思うんですが、地震についてはまだそのレベルに達していない。地震がそれ以外の災害に比べての特徴というのは、一旦大きなものが起こってしまうと多方面に作用して、一人ひとりの被害が非常に大きくなることです。自分の生活に何が起こるのかをイメージすること通じて、身を守るために行動することが大切だと思います。

今後の地震保険普及に向けて

イベントの終盤では、地震保険の普及促進に向けて、一般社団法人 日本損害保険代理業協会の岡部繁樹会長が決意表明を行った。「地震は特殊で巨大なリスクのため、地震保険は化学の限界や日本の英知を集めた50年の歳月をかけて改善を重ねられてきました。世界有数の地震国である我が国ではどこにおいても地震の被害から逃れることはできません。大規模な地震災害から立ち直ることが大きく遅れれば被災地のみならず、国内経済全体に悪影響をもたらすことになります。だからこそ、地震保険の必要性を広く伝えて、加入者を増やしていくことが損害保険業界全体の社会的責任であると考えています」。

一般社団法人 日本損害保険協会の北沢利文会長は「地震が発生した場合、保険が果たす役割は決して小さくないと思います。お客様が『あのとき、地震保険に入っておけばよかった』と後悔される人々がいなくなることを目指して、地震リスクについて国民の皆様にしっかりと伝えていきたいと思っています」とコメントした。

(左から)一般社団法人 日本損害保険代理業協会の岡部繁樹会長、一般社団法人 日本損害保険協会の北沢利文会長

続いて、2016年度地震保険広報活動イメージキャラクターである俳優の高良健吾さんが登場した。

2016年度地震保険広報活動イメージキャラクターを務める、俳優の高良健吾さん

イメージキャラクターに選ばれたことについて「50年という節目で選んでいただいことと、僕個人が地震に対して感じたことがあって。そのときにこの役割をもらってとても縁を感じますし、その縁を大切にしたいと思います」と、高良さん。

高良健吾さん「この役割をもらってとても縁を感じます」

CMで損害保険代理店の社員を演じたことについて聞かれると「今回の役を演じるに当たり、地震保険についても勉強しました。僕は熊本出身で、熊本で地震が起きたときに思ったのは、いつどこで起きるかわからない、ということでした。自分は地元を出て東京に来て、地元のみんなから地震に気をつけてね、と言われている立場だった。それなのに、熊本で大地震が起きて……。九州の人たちも想定してなかったと思うんです。地震が起きた後、この役をもらったときに、地元の人にもっと地震保険を知っていてほしかったな、と思いました」と胸のうちを語った。

地震保険制度については「日本に住んでいる以上、地震から離れられないし、避けることもできない。相手は自然なので、人間は太刀打ちできない。地震保険があることによって、被災した方たちの不安に寄り添えたり、生活再建をサポートできたり、というふうに地震保険が不安な人たちが立ち上がる勇気を支える保険になったらいいな、と思います。一人でも多くの人に知ってもらえるように、自分も皆さんと一緒に頑張っていきたいです」と意気込みを語った。