愛のトンネルを抜け、ラピュタと重なる風景に出会う

「愛のトンネル」は、レンガ造りの道路用トンネルとしてはわが国最古級であり、内部には弾薬元庫や司令部の跡が残っている。アーチ型の天井の美しさは驚くばかりで、まるでヨーロッパの城か僧院にでも迷い込んだかのようだ。

全長約90mの「愛のトンネル」はレンガ造りのトンネルとしてはわが国最古級

そして、このトンネルを抜けた先に広がるのが、『天空の城ラピュタ』の廃墟を思わせる世界である。木の根が建造物を半ば突き崩し、当時最先端の技術で造られた要塞が、自然に回帰しつつある様がラピュタの廃墟に重なって見えるのだ。

広がるラピュタの世界。壊れかけたロボット兵が歩いていても不思議ではない

この先には、太平洋戦争期の高角砲の砲座跡などが何カ所か残されているが、余りにも素晴らしい明治時代の要塞跡を見た後では、たいした感銘は受けないだろう。島内で、もう1カ所オススメの見どころを紹介するなら、島の北東部に位置する江戸時代の「卯ノ崎台場」の跡だ。ここからは房総の木更津や富津岬方面がとてもよく見える。東京湾で最も間口の狭いこの場所は、異国船を砲撃するのに最も適した場所だったのがよく分かる。

卯ノ崎台場からは房総半島がよく見える。この場所を含め、猿島島内に3カ所の「台場」が造られた

ちなみに「猿島」という名前から、猿がいると思うかもしれないが、実は島内にサルは一匹もいない。島名は、島の北端にある「日蓮洞窟」に伝わる、日蓮聖人が白猿に導かれてこの島に漂着したという伝説によるものだ。

●information
アクセス: 「三笠桟橋」まで、京浜急行横須賀中央駅から徒歩12分
乗船料: 1,300円(往復)
猿島公園入園料: 200円
ガイド料金(2016年7月1日より改定)
猿島公園コース 6人以上の場合はひとり600円、5人以下の場合は全員で3,500円

走水(はしりみず)低砲台跡もセットで見学を

猿島探検後、もし時間が許すなら、2016年5月から公開を開始したばかりの「走水(はしりみず)低砲台跡」もセットで見学するのをオススメしたい。走水低砲台は、猿島よりやや遅れて、明治18年(1885)~19年(1886)にかけて建設された要塞跡だ。

まるで古代遺跡のような走水低砲台跡の弾薬庫入口

猿島と同様、明治時代のレンガ要塞の廃墟が残されているが、長らく立ち入り禁止となっていたこともあって、猿島よりもさらに廃墟感が高い。まるでジャングルの中にたたずむ、古代遺跡のような弾薬庫の扉を開けば、あたかも時間の止まった時の回廊に足を踏み入れたようだ。空気までもが当時のもののように思えてならない。

弾薬庫内部は、表面の漆喰(しっくい)が剥がれてレンガがあらわになった部分が多い。猿島と比べると部屋が狭く、弾薬を保管する部屋から揚弾井まで通路を経由しなければならないなど、ほぼ同時代の建築ながら少なからぬ違いが見られる。

走水低砲台跡の弾薬庫内部

こうした猿島と走水の違いの説明を受けながら歩くのは、とても楽しい。なお、走水低砲台跡の見学は、ガイドの申し込みが必須で自由見学は不可となっている。

●information
アクセス: 京浜急行馬堀海岸駅からバス「観音崎」行き「走水上町」下車、徒歩1分
ガイド料金(2016年7月1日より改定)
走水低砲台跡コース 6名以上の場合はひとり400円、5人以下の場合は全員で2,200円
猿島と走水はセット申し込みも可
※走水低砲台跡観光は、猿島公園専門ガイド協会のほか、よこすかシティガイド協会、観音崎フィールドレンジャーの3団体がガイドを受け付けており、それぞれガイド料金やツアー内容が異なる

このほか、横須賀では人気の「YOKOSUKA軍港めぐり」クルーズツアーや海水浴、ご当地グルメ「よこすか海軍カレー」など、さまざまな楽しみがあるので、のんびり訪れてみるのをオススメしたい。

「軍港めぐり」と「海軍カレー」の横須賀半日観光も魅力的。詳細は「話題の横須賀「軍港めぐり」はロマンがいっぱい! 新名物は「海自カレー」!?」を参照

※記事中の情報は2016年6月時点のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。