5月16日に正式発表されたLCC6カ国8社によるアライアンス「バリューアライアンス」は、6月7~8日に成田で行われたCAPA北アジアLCC会議でも話題となった。2016年1月に先行して設立された中国系LCCアライアンス「U-FLY」に次ぐものだが、今後それが具体的にどのような形、レベルで運用されていくのか、詳細はさらなる事業の進展を待つしかないが、今考えられる効果や問題点について考察してみたい。

バリューアライアンスは、バニラエア、セブパシフィック航空、チェジュ航空、ノックエア、ノックスクート、スクート、タイガーエア・シンガポール、タイガーエア・オーストラリアの8社が設立メンバーとなる

出足の効果は限定的

同アライアンスは発表後、各方面で取り上げられているが、構成メンバーを見ても分かる通り、すでに合弁会社を運営しているスクート(実質的にはシンガポール航空)が主導して設立されたとみられている。

シンガポール航空はフルサービスキャリアをシンガポール航空(長距離)とシルクエア(短距離)で受け持ち、LCCをスクート(中長距離)とタイガーエア(短距離)で受け持つというセグメント戦略をとっている。このうち、タイガーエアの経営が伸び悩んでいるため、提携先であるノックエアを巻き込んだLCC戦略の強化を図ろうというのがバリューアライアンスの狙いのひとつ、というのが筆者の取材した範囲での見立てである。

しかし、上記グループ各社の連携というだけでは販売拡大効果が限られるため、タイガーエアの提携先であるセブパシフィック航空、地域ネットワークの観点から日韓のチェジュ航空、そして日本のバニラエアを加え、ネットワークとマーケットの拡充を企図したものと考えられる。これらがワンストップアクションで予約・発券・精算・手荷物等をつなげることができれば、確かに有効なLCCネットワークが構築できるだろう。これを受け持つのが、「エアブラックボックス(ABB)」の予約システムとされる。

バリューアライアンスの設立には、設立メンバーであるスクートに出資しているシンガポール航空からの働きかけがあったとみられている

しかしバリューアライアンスの発表では、複数区間をまたぐ通しのチェックインや手荷物受託サービスは提供されず、予約・支払い機能の提供にとどまるため、旅客にとっての当面の利便向上には限度がある。加盟エアラインがアライアンス効果で大きく需要を伸ばすには、まだ時間と制度の成熟が必要かと思われる。

CAPAによると、エアアジアのCEOであるトニーフェルナンデス氏は「失敗するだろう」と断じているそうだが、成否を語るには尚早としても、アライアンス効果を発揮するにはいくつか大きなハードルがあるのも事実だ。それは、「システムが解決すべきもの」「エアライン間の交渉により解決すべきもの」「制度的に解決すべきもの」があり、以下にもう少し検証してみよう。

エアブラックボックスができることは?

まずABB社のシステムについてだが、異なる予約エンジンを持つアライアンス参加エアライン間のシステムをつなぎ、一度の操作で複数路線・便の予約・支払いを完了するとしている。複数エアラインの路線・座席をつなぐ機能は、旅行会社でも持っている事例はあるので、これ自体が画期的なシステムというわけではない。まだ加盟全社がABBの予約システムと接続していないので十分な実地検証はできないが、機能としては運賃を合算し、最初の搭乗区間の航空会社が収受、締め日に他社預かり分を精算するというシンプルなものだろう。

この場合、まず問題となるのは運賃を収受した航空会社の運送に関する責任である。これまではLCC各社の遅延、欠航対応は自社乗り継ぎ等に限られていた。しかし、ABBのシステムから複数社の乗り継ぎ便予約を行った場合、第一区間の運航社が遅延・欠航に伴う旅客対応に責任を持つ(接続を保証する)とされており、アライアンス構築による旅客メリットのひとつと考えられる。

ただ、複数区間の乗り継ぎの場合、第2~第3区間の乗り継ぎに第1区間の運航航空会社がどこまで責任を持ってイレギュラー時の旅客対応ができるかという問題は残る。さらに、航空会社としては自社便の運航状況の把握でも手一杯なのに、他社の遅延を自社旅客に責任を持って案内したり、代替策を提示したりできる余裕があるのかは、大いに心配されるところだ。下手をすると大きなクレームになりかねない。

バリューアライアンス設立メンバーの国籍は、シンガポール、タイ、フィリピン、韓国、日本で、日本からはバニラエアが加わっている

次に気になるのは、ABBのシステムでどれだけ多くの乗り継ぎ便を掲載できるか、また、各社が掲載するのかという問題だ。加盟エアラインの国籍を見ると、シンガポール、タイ、フィリピン、韓国、日本であり、地理的な中間地点として多くが就航している台湾/香港ベースのエアラインはない。

このため、日本から台湾/香港以遠に行くにはバンコクとシンガポールしか直行便がなく、せっかくバリューアラインスがカバーしている東南アジア、インド、中国、中東に行くには、日本からは2~3回以上の乗り継ぎが必要になる。乗り継ぎ回数があまり多くても、旅客にとっては非現実的な旅程になるし、絞りすぎると目的地への選択肢が狭まるというジレンマがある。各社が「乗り継ぎ便の条件」を前広、適切に定め、乗り継ぎ回数や所要時間を明記して、トラブルのないように情報を開示する必要があり、そのためにもシステムの精度と利便性が問われる。

クレジットカードの手数料もコストプッシュに!?

また、細かい話だが、クレジットカード手数料の問題もある。加盟LCC各社のカード会社との契約レートは同一ではなく、最初の区間のエアラインの手数料が高い(与信が低い)場合、後半の手数料の低い会社の分まで同じ高いレートで徴収されることになる。

これは逆の場合もあり得るが、ABBのシステム上、利用エアラインと区間によって手数料を分けて徴収するには多大な改修が必要と考えられる。ABBがカード会社と交渉して統一レートを設定し、加盟各社がそれを飲むという方法をとるだろうと思われるが、一部エアラインにはコストプッシュ要因になり得る。

それ以上に障害となりそうなのが、「手荷物の最終目的地までのスルーチェックイン」である。