EU(欧州連合)残留・離脱を問う英国民投票の結果はまだ確定していないが(本稿執筆時点)、結果はどうあれ、英国民投票が欧州政治に大きな波紋を広げたことは間違いない。英国だけでなく、今後は大陸欧州においても様々な軋みが表面化してくるかもしれない。

経済・通貨統合の結果として「必然的に」起こった度重なる債務危機、その結果としての半強制的な緊縮政策、国境を越えた人の移動の自由を定めたシェンゲン条約に根差す移民・難民問題など、欧州の統合深化に対する不満は各国で高まっている。反ユーロ、反EUを標榜する政党や政治運動は、ほぼ全ての加盟国で勢いを増していると言っても過言ではないだろう。

当の英国では、EU残留が決まったとしても、投票結果が接戦であるほど、与党保守党、とりわけキャメロン首相の政治基盤は弱体化しそうだ。党を二分して議論が戦わされたからだ。ましてや、EU離脱ということなら、キャメロン首相は一気にレームダック化しかねない。今後の政情次第では、新たに国民投票の動きが出たり、それに刺激を受けてスコットランド独立運動が再燃したりする事態も考えられる。

英国以外の国にも反EUの動き

欧州大陸でも、ユーロ圏への参加を見送ったデンマークやスウェーデン、ユーロ圏のオランダやフランスで、英国同様の国民投票を求める声が強まっているとの調査結果があるようだ。

ユーロ圏では、緊縮政策を余儀なくされたギリシャ、イタリア、スペインなどで反ユーロ、反EUの傾向がとりわけ強い。

ギリシャは、債務危機に端を発してユーロ離脱の危機に瀕した、政局が流動化したことは記憶に新しい。昨年9月の再選挙を経て、SYRIZA(急進左派連合)を中心とする連立政権が維持され、チプラス首相の下で経済改革が進められている。EUによる金融支援も続けられている。もっとも、国民がいつまで緊縮政策に耐えられるか。チプラス政権が盤石でないだけに、楽観は禁物だ。

イタリアでは6月20日、反EUの中心である「五つ星運動」がローマとトリノの市長選で勝利した。今年10月に政治制度の変更に関する国民投票が実施される予定だが、「五つ星運動」はこれと別に英国同様の国民投票を求めているようだ。

スペインでは6月26日に総選挙が実施される。昨年12月の選挙で、どの政党も過半数の議席が取れず、また連立交渉も失敗に終わっていたからだ。ここでも、反EU派が勢力を拡大する可能性がありそうだ。

欧州統合の推進役となってきたドイツやフランスとて例外ではない。ドイツでは、難民問題のハンドリングも災いして、メルケル首相の求心力が低下している。早ければ来年8月にも実施される総選挙で、メルケル首相の連立与党が政権を維持すると今のところみられている。ただ一方で、反EUの極右政党「ドイツのための選択肢」が躍進、得票率が5%を超えて念願の連邦議会での議席獲得となるのはほぼ間違いなさそうだ。

フランスでも、オランド大統領と与党社会党の地盤沈下が著しい。その一方で、移民排斥を訴えるル・ペン氏の極右政党「国民戦線」が着実に勢力を増している。来年4-5月の大統領選挙や、同6月の議会選挙でも、「国民戦線」が台風の目になるかもしれない。

今後、変容していく可能性がある欧州政治からも目が離せない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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