出産という大きな人生のイベントを終えたママの身体は疲労でいっぱいです。まず、うまれたばかりの赤ちゃんの面倒を24時間寝る間もなく、お世話しなくてはなりません。でも、それだけではないのです。自分の身体も、大きくなったおなかが急速にしぼむことで起きる「産後痛」や赤ちゃんが出た後の子宮から発する「悪露(おろ)」などに見舞われ、痛みや苦痛で大きな負担がかかっています。
本来であれば、4週間くらいは布団で休む生活をして身体を回復させる時間がほしいところですが、さまざまな事情で実現できないのが現状だと思います。そうしたママたちを労る「産後ケア施設」というものがあるのをご存知でしょうか? 今回、日本初の24時間型ケアセンターである「武蔵野大学付属 産後ケアセンター桜新町」へ入所したママの体験をご紹介します。
「床上げ」は理にかなったしきたり
女優の小雪さんが韓国の施設(産後調理院)を利用したことで、日本でも話題となった「産後ケア施設」。「ぜいたくだ! 」と思う人もいるかと思われますが、かつては日本でも、"産後床上げ1カ月"といい、その間は布団を敷きっぱなしにし、産婦はできるだけ横になって身体を休めるというしきたりが一般的でした。その間は家事を休み、上膳据膳で産室にこもっていたそうです。
というのも当時は、産後の身体は「不浄」とされ、けがれが取れるまでの約1カ月間は産室から出ることを禁じられていたそう。それだけ聞くと、むごい風習に感じるかもしれませんが、実はこれ、産後の身体を守るために必要な、理にかなったことだったのではないでしょうか。
昔の人は経験上、産婦には十分な養生が必要という認識があったものの、「表立って嫁を休ませるわけにはいかないから」ということで、けがれという理由をつけて産室に引きこもらせ、養生を促したのではないかと推測されます。それが近代になるにつれ、裏にある産後ケアへの配慮を省き、「けがれなんてないから大丈夫」という認識に変わったように思われます。
里帰り出産ができても養生が難しい訳
近年は核家族化が進み、地域との関係も希薄になりました。夫の手を借りたくとも、仕事に奔走していて帰ってくるのは夜中。育児に悩んでいても、身体がしんどくても、ひとりで全てを抱え込んで途方に暮れる。これが現代の育児シーンだと思います。
里帰り出産も本来は、産後に産婦の身体を家事などの負担から守り、休ませる手段として、実家で産んで世話をしてもらうというものなのですが、なかなかそれができないのが現状です。最近の祖父母世代はまだ現役としてフルタイムで働いていて、産後の娘の面倒まで見られないという声も聞きます。
また、高齢出産の増加によって、高齢者になってから孫をもったという人も少なくありません。孫はかわいいけれど、世話となると体力的にキツイという人も多いようです。なので、里帰り出産で実家へ戻ったとしても、上膳据膳でお世話してもらえるというのは、本当に恵まれた人のみでしょう。実母ではなく、義母にヘルプをしてもらうという考え方もありますが、夫の実家が遠方だったり、実母同様に高齢だったりの理由で、義母からもヘルプを受けられない場合もあります。
つまり、現代のママは産後といえども、十分に養生する機会も時間もとれないというわけです。その結果、妊娠・出産を機に、心身ともに壊してしまうママも少なくありません。そこで注目されているのが、滞在型産後ママのケア施設です。日本国内にもいくつか施設がありますが、今回は日本初の24時間型ケアセンターである武蔵野大学付属 産後ケアセンター桜新町での4泊5日の体験をご紹介します。