「北海道ガーデン街道」は全長250km。十勝、富良野、大雪にある個性あふれるガーデンをつなぐこの新たな観光ルートは、地方創生が推進する地域観光の広域連携の先駆的モデルとしても注目されている。そこで2回に分け、街道を構成する8つガーデンの魅力と楽しみ方をご紹介。今回は前回の富良野~大雪編に続き、十勝に広がる5つのガーデンの魅力に迫る。
1日で5ガーデンを巡ることも可能
北海道ガーデン街道が誕生したのは2009年のこと。中でもこれ以前、関東の旅行代理店から「十勝には見る場所がない」と言われ、通過型観光地のレッテルを貼られていた十勝には5つのガーデンが集積されており、入園者数は10万人から35万人へ激増した。
JR帯広駅を中心とする十勝エリアには、5つのガーデンが集積している。レンタカーを利用すれば、1日で回ることも可能だ。JR利用の場合、周遊に便利な「とかちガーデン街道タクシープラン」がある。「十勝千年の森」はやや離れた場所にあるが、他の4つのガーデン間の実質の移動距離は計約42.3km、時間にして50分ほど。ただし、いずれのガーデンもかなり広い敷地面積を有しており、一つひとつきちんと見て歩き、満喫するとそれなりに時間を要す。
ガーデン巡りを楽しむコツはあまり予定を詰め込み過ぎないこと。5つのガーデンはそれぞれ個性も異なり、好みも分かれる。季節により咲く花も変わり、花の開花時期も毎年同じではない。その日の天気で見え方も違う。二度と同じ景色には出会えないかもしれない。
お気に入りのガーデンを見つけたら、そこでゆっくりして残りはまた次回に回すのもいいだろう。とかちのガーデン巡りをするなら大幅な割引と特典付きの「とかち花めぐり共通券」(3施設で最大2,700円のところ1,500円)が断然お得だ。では、十勝にある5つの庭の魅力を紹介しよう。
六花とアートに触れる空間
まず紹介するのは、中札内村の森のガーデン「六花の森」。ガーデンには、菓子メーカーの「六花亭」の包装紙に描かれている花々、特に6つの山野草「十勝六花」が四季折々に花開き、「森」と「アート」を感じられる空間になっている。アクセスは、とちか帯広空港から車で約15分、JR帯広駅から車で約40分、となる。
10万平方メートルという広大な敷地では、春はカタクリ、エゾリュウキンカ、オオバナノエンレイソウ、シラネアオイ、夏はハマナシ、秋はエゾリンドウなど、季節の山野草の群生を見ることができる。園内を流れる三番川沿いには、クロアチアの古民家を移築した美術館やアートが点在。丘の上には巨大な彫刻「考える人(ロダンから)」がある。園内には、オリジナルグッズがそろうショップとカフェが併設された「レストハウス&ショップはまなし」もありくつろげる。
近くには旧国鉄・広尾線の「幸福駅」もある。鉄道は昭和62年(1987)に廃線となったが、縁起のいい駅名は今も観光客に人気で駅舎は残されている。列車の展示もあり、売店では「幸福きっぷ」やグッズも販売されている。
"ガーデニング界のカリスマ"が再現した野原
六花の森から約13km、車で16分程のところには、1万8,000万坪のお花畑「紫竹(しちく)ガーデン」(帯広市)がある。この庭を創った紫竹昭葉さんは"ガーデニング界のカリスマ"にして、北海道ガーデン街道のスター・ガーデナーだ。平成1年(1989)に「一日中、花と遊んでいたい」と思い立ち、庭づくりを始めたのはなんと63歳の時。「子どもの頃に遊んだ野の花が咲く野原のような風景にしたい」と十勝平野に1万8,000坪の土地を入手した。
当時そこには数本の木が立っているだけだったが、28年が経過し、今や22のゾーンに2,500種の花が咲くお花畑となった。国内のみならず、台湾やシンガポールなどアジアからの観光客も多く、年間10万人が訪れている。園内ではよくカリスマを見かけるという。もしカリスマに会えたらなら、何かラッキーなことがあるかもしれない。また、園内にはレストラン、カフェ&ショップも充実。「バラのソフトクリーム」(税込300円)や「お花畑朝食」(税込1,620円)なども楽しめる。
丘のガーデンに日本初のコニファーガーデン
紫竹ガーデンから約23km、車で約35分のところには「十勝ヒルズ」(幕別町)がある。丘の上にあり、ガーデン越しに十勝平野を一望する眺めのいいレストランでは5つ星ホテルなどで料理長を務めたシェフの料理が楽しめる。JR帯広駅から行くなら、車で約15分となる。
そんな十勝ヒルズから約6.3km、車で10分のところには、日本初の針葉樹を中心とした庭園、コニファーガーデンとして知られる「真鍋庭園」(帯広市)がある。JR帯広駅から行くなら、路線バスで約20分となる。敷地面積は2万4,000坪に及び、日本庭園、西洋風庭園、風景式庭園があり、ここでしか見られない新品種の植物もある。
成長の遅い植物で構成された「ドワーフ・ガーデン」、ヨーロッパガーデンには昭和52年(1977)築の「赤屋根の家」はオーストリアのチロルハウスをモチーフにした木造建築、日本庭園には水連が浮かぶ「鯉の池」。その全てを見て回るとその距離は約1.5kmにもなる。また、ガーデンセンターでは見本園に植えられている珍しい植物や国内で入手困難な新しい園芸品種も扱っている。
「最も美しい庭」と称賛も
最後に紹介するのは、真鍋庭園から約36km、車で1時間のところにはある「十勝千年の森」(清水町)。JR十勝清水駅から行くなら、車で15分だ。
森内の「アース・ガーデン(大地の庭)」と「メドウ・ガーデン(野の花の庭)」は、優れた庭園デザインを表彰する英国のガーデンデザイナーズ協会(SGD)賞選考で、日本では初となる最高位の大賞「グランドアワード」を受賞。審査員からは、「最も美しい庭」「21世紀のガーデンデザイン最良の例」と絶賛された。日高山脈のふもとのあって圧倒的スケールの自然と庭があり、セグウェイガイドツアーなども行われている。
最後に帯広に行ったら絶対食べたい、ご当地グルメ「豚丼」がある。甘辛いたれに包まれた豚ロース肉がご飯にマッチし癖になる。JR帯広駅の目の前には「元祖豚丼のぱんちょう」など、帯広市内には多数の人気豚丼店がある。春から北海道は木々や花々が最も美しい季節を迎える。リフレッシュや充電に、生命あふれる植物や雄大な自然、その土地ならではの食を楽しみに出掛けてみては。
※記事中の情報は2016年5月のもの
筆者プロフィール: 水津陽子
フォーティR&C代表、経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、企画コンサルティング、調査研究、執筆等を行っている。著書に『日本人がだけが知らないニッポンの観光地』(日経BP社)等がある。