認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さん

認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹 代表理事らが世話人をつとめる「給付型奨学金の実現を求める有志一同」は5月9日、給付型奨学金の創設を求めるネット上の署名活動を開始。1カ月で5万人の署名を目指し、政府に届けたいとしている。

学費が高い上に給付型奨学金がないのは日本だけ

この活動は、政府内で議論が進められている給付型奨学金の創設を後押ししようと行われるもの。フローレンス代表理事の駒崎さん、NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さん、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子さんが世話人となり、5月9日現在で32名の有志が署名を呼びかけている。

活動開始にともない開かれた記者会見で駒崎さんは、「日本では6人に1人の子どもたちが貧困状態にあり、経済的な事情で進学が難しい状況だ。中には親を困らせたくないと勉強する意思があっても働いている人がいる」と現状を指摘。「教育はもはや福祉ではなく経済的な成長にとって欠かせない要素。これを機に、給付型奨学金の創設を参院選のアジェンダにも加えていただきたい」と訴えた。

OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、加盟する34カ国のうち給付型奨学金の制度がないのは日本とアイスランドのみ。アイスランドは大学の授業料が無償であることを考えれば、日本における教育費の負担がいかに大きいか理解してもらえるだろう。世話人の1人、貧困家庭の子どもたちに無料の学習会を開いているキッズドアの渡辺さんは、「最もお金のかかる高校・大学時代に児童扶養手当などの社会的な支えがないのが、困窮家庭の大きな悩みだ」と主張。成績が優秀であっても進学校に進めなかったり、就職の道を選んだりする子どもたちの姿を見るたびに胸を痛めているという。

休眠口座の1割で1万人が進学可能に

長年必要性が叫ばれていた給付型奨学金。しかし、「財源がない」という理由で退けられてきた経緯がある。この点について駒崎さんは「休眠口座を使ったらどうか」と提案した。休眠口座とは、最後にお金を出し入れした日や定期預金の最後の満期日から銀行では10年、ゆうちょ銀行では5年以上たった口座のうち預金者と連絡がつかないもの。日本では毎年、新たに800億円以上の休眠口座が生まれていると言われていて、現在は銀行の収入になっている(日本財団資料による)。

休眠口座になったとしても預金者の権利が失われるわけではなく、いつでも払い戻しが可能だが、小額であったり手続きが煩雑であったりすることから永久に休眠化してしまうお金が大半。そのためイギリスや韓国などでは実際に、休眠口座を基金化し、社会福祉や奨学金に活用しているそうだ。

駒崎さんによれば、日本でも休眠口座の活用については超党派で議連ができており、活用法案の準備も進められているという。想定では、「毎年1000億円の休眠口座があったとして、休眠預金の1割にあたる100億円を奨学金に利用できれば、年間100万円を1万人の子どもたちに給付できる」としている。

「政府の手柄」に終わってはいけない

左からNPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さん、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子さん

予算規模については、休眠口座活用の想定にもあるように、数億円や十数億円という規模ではなく、「100億円を超えるような規模」で実現してほしいとのこと。「非常に小規模の予算で、『やりました』ということだけが政府の手柄になることを危惧している」と駒崎さん。給付条件については議論が必要としながらも、100億円以上の規模であればかなり多くの子どもたちに進学のチャンスがうまれるだろうと主張した。

年間100万円という金額は大きい額に感じるかもしれない。しかし、世話人の1人でひとり親の支援を行っているしんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石さんは、「大学の入学時だけでも100万円かかる」とその負担の大きさを訴えている。国立大学でも最初に納入する入学金、授業料を合わせると約80万円。パソコン購入などの入学準備をあわせると100万円は優に超えてしまう。教育ローンや有利子の奨学金など借金を重ねた上で、アルバイトをして生活費を稼いでいる学生たちの暮らしを考えれば必要な金額なのだ。

最後に駒崎さんは、「子育てにかかる費用は2,000万円と言われるが、半分は大学関連費用と言われている。そのくらいお金がかかっていて、そのお金を必要としている子どもたちがいるのだということも啓発したい」と活動の意義を語った。

署名はchange.orgのサイト内で可能。集まった署名は菅官房長官に届けたいとしている。