日本財団が運営する「ママの笑顔を増やすプロジェクト」は2月18日、「しごと×くらし×新ワークスタイル」をテーマにした女性のためのリベラルアーツ講座を開催。次世代社会研究機構の西田陽光さんがファシリテーターを務め、招かれた3人のゲストが「女性の働き方」について語った。

左から次世代社会研究機構の西田陽光さん、ウーマンスタイルの成田由里 代表取締役、Warisの田中美和 代表取締役、主婦と生活社「CHANTO」の山岡朝子 編集長

このうち成田由里さんは、石川県金沢市の女性向けマーケティング会社 ウーマンスタイルの代表取締役。専業主婦として6年間過ごしたあと、夫の転勤に伴い広島県で在宅ワークを経験。その後、起業を果たした。また週3日勤務などフレキシブルに働ける仕事を女性に向けて提供している人材サービス会社、Warisの田中美和 代表取締役は、日経BP社の記者として活躍した後、フリーランス記者を経て独立。山岡朝子さんは、働く女性向けの生活実用誌「CHANTO」の編集長を務めている。

3人の議論はどのように展開していったのか。講座の内容をご紹介する。

「起業」すること自体は決して難しくない

西田さん: 起業してみて、思ったよりも簡単だったこと、反対に大変だったことはありますか。

ウーマンスタイルの成田由里 代表取締役

成田さん: 起業すること自体は簡単だと思いました。特に私は、起業する前に在宅ワーカーとして働いていたので、途中から会社にしたというだけで、資金もそんなに必要ない。計画を練りこんだり、用意周到に準備したりということもありませんでした。

ただ、やってみて思ったのは「続ける」のが大変だということです。さらに1人ではなく、人を雇う段階になると一気にハードルが上がります。会社には社員が5人いるのですが、最高のパフォーマンスをあげてもらうことに全神経を集中させなければならず、悩みであり大変なところです。また人を雇って初めて「お金が大事」というところに行き着きました。人を雇っていると固定費が確実にかかりますし、ちゃんと利益を出して税金を払って、内部留保をしていかないとまわっていかない。なかなかそういうやりくりは大変かなと思います。

株式会社Warisの田中美和 代表取締役

田中さん: 私も、起業に難しさを感じたことは正直ありません。どちらかというと、「起業」というライフスタイル自体が女性にぴったりだなと思う部分が大きいです。女性は結婚や出産、それに夫の転勤など、外的な要因でキャリアが左右されやすい。「起業」を選ぶとキャリアの自由度が高まるので、変化の多い女性のライフスタイルには向いていると思います。

起業のハードルという意味で言うと、最初に会社員からフリーランスという生き方を選ぶときの方が高かったですね。10年以上会社員として働いていたので、飛び出すのには勇気がいりました。

しかしなぜその道を選んだかというと、私は「日経WOMAN」の記者をしていたのですが、取材経験を通じて女性に役立つようなことがしたいという気持ちがわきあがったからです。また2011年に東日本大震災が起こったことも大きく影響しています。人の人生って何が起こるかわからない、だから少しでもやりたいことがあるのであれば、後悔しない人生を生きたいと思いました。

"等身大の起業"からステップアップしていく

ファシリテーターを務めた次世代社会研究機構の西田陽光さん

西田さん: お2人は、今目の前にあることを一生懸命やった結果、自然な流れで起業に至っていると感じているのですが、起業にあたって必要だと思うことはありますか。

成田さん: 主婦感覚をいかして、人に迷惑をかけない範囲で始めるというのが大事だったと思います。もし何かあっても、自分が謝って済むだけの資金で始める、そこが良くも悪くも女性ならではの起業の仕方なのかなと。

ビジネスプランのコンペに出たときに、男性の経営者からよく聞かれたのが、「何年後にどれだけの売り上げを出したいのか、どこまで事業を拡大させたいのか」ということです。しかし、これってすごく男性的な発想だと思っています。

私が大事にしているのは、1日でも長く、1年でも長く会社を続けること。男性的な大きな視点の経営はしにくいかもしれませんが、男性にはまったく思いつかない「小さいところを掘り下げる仕事」が女性にはできると思っています。自分が実感している問題を解決したり、実体験をもとにした女性の生の声をいかしたりする仕事などです。

しかし心がけておくべきなのは、時には事業を拡大するためにリスクをとることも必要だということです。例えばある会社の商品を売らせてほしいと思ったときに、委託販売にすれば売れ残って損をするリスクはないけれど、利幅も少なくなりますよね。本当にやる気があれば買い取ってリスクをとらないと商売は成立しませんから。

田中さん: 私の会社は自分を含め、女性3人が共同代表という形で起業しています。そのため、資本金も3分の1ずつ出し合って会社を作りました。そういう意味では、成田さんと同じように、非常に等身大のスタートを切れたことがよかったと思っています。

一方で起業してから必要だと思うのは、とにかく量、スピード共に「行動すること」ですね。私たちの会社では、仕事を提供する対象である「人」と、も、会社が提供する「仕事」のマッチングをするので、それが両方ないと商売になりません。ですから、創業当時は、「人」も「仕事」も、知り合いにひたすら声かけをして集めました。それで徐々にお客さまが増えていって、なんとかビジネスになっているんです。

主婦と生活社「CHANTO」の山岡朝子 編集長

山岡さん: お2人は等身大の起業をされたとのことですが、確かに野心を持って起業するというよりは、自分の人生をよりよくして、なおかつ仕事をすることを諦めないために起業をする方が増えている気がしますね。

雑誌の編集をしていて感じるのが、お母さんたちは、子育てをしながら働くことで夫や子ども、それに職場に申し訳ないという気持ちを持ってしまいがちだということです。そこで一昔前ならば、会社を辞めて家に入るという選択になったのかもしれませんが、今は「なんとか仕事は続けたい」という人の1つの選択肢として起業がある。

起業といっても言葉のイメージほど大それたものではなくて、例えば自分で作ったものが売れないかなとか、友達を集めて得意なことで教室が開けないかなとか、そんなところからのスタートがだんだんステップアップしていくイメージです。そういう小さな第1歩が、もっとたくさん生まれるといいなと思いますね。

ここまで、ゲストの起業の経験や、現代における「ママ起業」の傾向について議論が進んだ。後編では、どうしたら起業へと一歩踏み出す勇気が持てるのかについて、3人の見解をご紹介する。