吉田友和『3日もあれば海外旅行』(光文社新書/2012年11月/760円+税)

「本当は旅行に行きたいけど、まとまった時間を確保できないのでなかなか旅行に行けない」とこぼす会社員は少なくない。

時間が有り余っていた学生時代と比べると、会社員が余暇に避ける時間は限られている。仮に残業が一切なかったとしても平日は1日8時間程度働くために割かなければいけないし(残業のことまで考慮に入れると労働に割かれる時間はさらに多くなる)、通勤や食事、家事、睡眠にも時間をとられることを考えると、自由に使える時間は決して多くはない。平日は家と会社の往復と家事などで終わり、週末も半分ぐらいは平日の疲れを癒やすことで終わってしまう。こんな状況では、とてもではないが旅行になど行けるはずがない。

こういう現実に直面すると、日本も外国のようにバカンスでまとまって30日程度の休みが取れる国になればいいなと思わずにはいられない。しかし、いくら嘆いても現実はなかなか変わらない。それならいっそのこと開き直って、長い休みが確保できなくても実現できる旅行の方法を模索していったほうが前向きでいいかもしれない。本書『3日もあれば海外旅行』(吉田友和/光文社新書/2012年11月/760円+税)には、そんな時間がない日本人が旅行を最大限楽しむためのヒントがたくさん詰まっている。「本当は旅行に行きたいけど、まとまった時間を確保できないのでなかなか旅行に行けない」と一度でもこぼしたことがある人は、まず本書を読んでみるべきだ。一読すれば「時間がない」はほとんどの場合言い訳に過ぎず、それよりも「旅行に行きたい」という気持ちのほうがずっと大事だったということに気づくはずである。

昔に比べて旅行のハードルはかなり下がっている

昔は海外旅行といえば一大事で、それこそ最低でも1週間ぐらいは確保しなければまともな旅行はできないというイメージがあったが、諸々の理由で最近はずっと海外旅行が身近なものになっている。

第一の理由として挙げられるのが、羽田空港の国際化だ。これにより、仕事帰りに空港に直行して海外旅行に出かけるという方式を取ることが可能になった。たとえば、これは本書の冒頭で紹介されている例だが、金曜の夜に羽田の深夜便で東南アジアに出発すれば、機内泊を経て土曜の早朝には到着できる。そのまま土日を現地で過ごし、日曜深夜出発の現地便で帰れば月曜の朝には東京に戻ることができる。そのまま会社に向かえば、有給を1日も使わずに週末だけで海外旅行を実現したことになる。もちろんこれはかなり極端な例で、かなりの強行軍になるので誰にでもマネできるとは言いがたいが、これに有給を1日程度取得して加算すればだいぶ余裕が出てくる。本書のタイトル「3日もあれば海外旅行」は決して誇張ではない。

第二の理由は、LCCの台頭だ。「時間」以外の海外旅行を阻む壁として「お金」があったが、規制緩和で国産LCCが台頭したことで価格面でも海外旅行はずっと身近なものになった(特にアジア方面)。旅行にかかるお金を抑えたいなら、たとえばハイシーズンを避けたり、航空券の申し込み時期を極限まで早くするなどの手段もある。「時間がない」だけでなく「お金がない」も今や海外旅行に行くことを阻む理由としては決定的ではない。

旅は自分で組み立てよう

海外旅行といえば旅行会社のツアーを申し込み、あとは自由行動時間に自分でオプショナルツアーを申し込むというやり方を取る人が多いが、本書で多くページ数が割かれて解説される旅行のスタイルは、航空券やホテルも自分で組み立てるタイプのものだ。本書で旅行の際に最大限重視すべきだとされているのは、「どこへ行きたいか」と「そこで何をしたいのか」である。ツアーだとどうしても価格に先に目が行きがちになってしまう。本当はフランスに行きたいけど、イギリスのほうが安かったからイギリスで、というのは本末転倒な感じがする。もちろん、ツアーでも目的に合致しているならば問題ない。

旅を自分で組み立てる際に最も重要になるのが、航空券の確保だ。本書の半分以上は、この航空券の確保を巡る話に割かれている。旅慣れた人なら誰でも知っているであろう基礎的な話から、「そういうやり方もあるのか」「そこまでするのか」と思わず驚くテクニックまでいろいろと紹介されている。ここで細かく紹介すると収集がつかなくなるので詳しくは中を読んでもらいたいのだが、自分で航空券を手配して海外旅行に行きたいと思うならぜひ一読しておきたい内容だ。

旅の目的は千差万別

本書の最終章では「たとえばこんな新しい旅」と題して、紋切り型の旅とはちょっと違った目的の旅の例が紹介されている。ひとつの観光地を何度も何度もリピートしたり、世界各国で参加するマラソン大会に参加することを目的にしてみるなど、この章を読んでいると旅の目的はいくらでも自分で自由に設定できるという当たり前の事実を再認識できる。

自分なりの目的と、旅行に行きたいという強い意志さえあれば、海外旅行は忙しい日本の会社員でも十分実現可能だ。ぜひ、本書を片手に自分の目的を達成するための海外旅行にチャレンジしてみてほしい。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。