がんや心疾患と並び、「日本人の3大死因」と称される脳血管疾患。その中でも、発症が最も多いのが「脳梗塞」だ。働き盛りの中高年にも突然襲ってくるこの脳梗塞とは、一体どのような病気なのだろうか。
本稿では、高島平中央総合病院の福島崇夫医師の解説を基に、脳梗塞の症状や発症しやすい人の特徴などについて紹介する。
脳梗塞には3つの種類が
まずは脳梗塞の基本的な部分から学んでいこう。
脳梗塞は、脳の血管に障害が起きて脳組織の一部が死んでしまう病気「脳卒中」の一つだ。脳卒中は「血管がつまる」タイプと「血管が破れる」タイプの2つに大別できる。脳梗塞は前者の代表例で、後者には「脳出血」や「くも膜下出血」が該当する。日本人の場合、脳卒中患者の実に約7割が脳梗塞だとされている。
さらに、脳梗塞は3種類に分別できることも覚えておこう。心臓でできた血栓(血の塊)が血流で脳まで運ばれて脳の血管がつまってしまう「脳塞栓(そくせん)症」、小さな脳の血管がつまってしまう「ラクナ梗塞」、大きな脳の血管がつまってしまう「アテローム梗塞」の3つだ。
脳梗塞が原因で現れる症状
■片方の手足や顔半分のマヒ・しびれが起きる
■ろれつが回らなかったり、言葉が出なかったりする
■力はあるのに立てなかったり、歩けなかったりする
■片方の目が見えなかったり、物が2つに見えたり、視野の半分が欠けたりする
これらが一般的な脳梗塞の症状だ。脳梗塞は、血管がつまった場所や血管の大きさによって、現れる症状が異なる。脳には運動や感覚、視野などのさまざまな機能をつかさどる場所があるため、そのつまった部位によっておのずと症状が違ってくるというわけだ。
脳梗塞の各タイプと症状をより具体的にまとめたので参考にしてほしい。
ラクナ梗塞(小梗塞)
脳の太い血管から枝葉のように分かれている細い血管が狭くなり、つまることによって起きる。高血圧が原因とされる。
アテローム梗塞(中梗塞)
動脈硬化で太い血管が狭くなって血栓ができ、血管がつまるタイプの脳梗塞。動脈硬化を発症させる高血圧や高脂血症、糖尿病などが主な原因となる。
脳塞栓症(大梗塞)
心臓にできた血栓が血流によって脳まで運ばれ、脳の太い血管をつまらせることで起こる。不整脈の一つで、動悸(どうき)やめまいなどの症状が出る「心房細動」が原因であるケースが多い。
「ラクナ梗塞であれば、意識がなくなるということはなく、体半分の感覚障害や運動まひだとか、意識があるのにろれつが回らないなどの症状が出てきます。アテローム梗塞と脳塞栓症では、ラクナ梗塞と違い太い血管がつまることが多いため、いずれも意識障害や失語など症状は重篤です。この両者を臨床症状から鑑別するのは難しいです。アテローム梗塞では、高血圧、糖尿病により動脈硬化(プラーク斑)が生じ、血管の狭窄(きょうさく)を起こします。やがてこの部分に徐々に血栓が形成されるため、例外はありますが一般的には症状はゆるやかに進行します。一方、脳塞栓症は日中の活動時に突然起きることが多いです。症状は発症当初から完成されており、例えば仕事中に急に卒倒するケースなどがあります」。
高齢化による脳塞栓症が新たな問題に
かつての日本においてはラクナ梗塞が多かったが、食事の欧米化が進んだことなどもあり、近年では動脈硬化や高脂血症由来のアテローム梗塞が多くなっていると福島医師は指摘する。
もう一つの特徴として、「高齢化」というキーワードも深く関わってきている。日本人の平均寿命が延びてきていることに伴い、心房細動を患う患者が増加している。すなわち、高齢者ほど、脳塞栓症になるケースが多くなっているというわけだ。
脳塞栓症は大梗塞とも呼ばれているように、脳梗塞の中でも症状が重くなりやすい。そのため、「高齢の方だから脳梗塞発症後の予後が悪いというわけではなく、起こる脳梗塞が大きいため予後が悪いというバックグラウンドもあるわけです」。
生活習慣病対策が肝要
それでは、脳梗塞にならないためにはどうしたらいいのだろうか。福島医師は脳梗塞の危険因子について詳しく説明する。
「ラクナ梗塞に関連があるのは高血圧ですね。アテローム梗塞は高血圧や糖尿病、高脂血症、喫煙がリスクファクターとなります。私たちは年をとってくると、血圧などを気にしだしますよね? そのため、中年サラリーマンの方は、高血圧と喫煙によって(比較的症状が軽いことが多い)ラクナ梗塞の段階で見つかることも多いです。一方、高齢者では重篤な症状を呈する脳塞栓症が多いです。おおよそですが、年齢ごとに脳梗塞のタイプは決まっていると言えます」。
高血圧や糖尿病、高脂血症などは生活習慣病の代表例。つまり、塩分や糖分、脂っこい食事などを控えたり、適度な運動を心掛けたりすることが、脳梗塞リスクから身を守るために重要だと言える。また脱水は血液の粘稠度(ねんちゅうど: ねばりけがあって濃いこと)が上がるため、特に夏は熱中症だけでなく脳梗塞を引き起こす可能性があるので、十分な水分の摂取が必要である。
脳梗塞は、当事者に与える社会的損失の大きさでも知られている。例えば、私たちの多くは左大脳半球に言語中枢があるため、左脳で脳梗塞が起きると、言語障害が出やすい。そうなってしまった場合、他者とコミュニケーションが取りづらくなり、回復後のリハビリテーションも進みにくい。場合によっては、社会復帰にも大きな影響を及ぼしかねない。
それだけに、脳梗塞の性質や症状をきちん把握したうえで、しっかりとその予防に努めてほしい。
※本文中の画像はすべて高島平中央総合病院の提供
記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)
日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。