バイエル薬品はこのほど、メディア向けのセミナー「加齢黄斑変性の最新情報 ~子・孫世代(20代~40代)の親や祖父母の目の健康に関する意識調査結果とともに~」を開催。東京女子医科大学 眼科学教室の教授・飯田知弘氏が、50代以上で年々増加している目の病気「加齢黄斑変性」に関する最新情報について講演した。

加齢黄斑変性についてセミナーを行った東京女子医科大学教授の飯田知弘氏

加齢黄斑変性とは

「黄斑」とは、眼球の視力・色覚の機能において一番よい場所のことで、視界の中心部分はこの場所で見ている。「加齢黄斑変性」は、この黄斑と呼ばれる部分が加齢によって異常をきたし、視界がゆがんたり、視界の中心が見えなくなったりしてしまう疾患のことで、近年、50代以上の世代で年々増加傾向にある。最新の学会報告によれば、50代以上の約60人に1人の割合で疾患が見られるという。

加齢黄斑変性は、50歳以上で黄斑に変性が起こる疾患

発症の要因としては加齢や酸化ストレス、喫煙、虚血、動脈硬化、高血圧、遺伝的な要因など複数挙げられる。飯田教授は「遺伝だけなど、ひとつの要因で発症するものではない。これらの要因が複数重なった場合に発症すると考えられています」と、複合的な要因で発症につながると話す。

アムスラーチャートで自己チェックできる

発症の自己チェック方法として、「アムスラーチャート」がある。格子状の表を目から30センチ離して、片目ずつ中央の黒い点を見つめるという方法で、老眼鏡やコンタクトレンズをしたままでチェックする。「格子がゆがむ」「中心が見えない」「真ん中が欠ける」といった形に見える場合は、加齢黄斑変性が疑われる。

加齢黄斑変性の最新治療法は?

加齢黄斑変性にはいくつかのタイプがあるが、日本人に多いのは「滲出(しんしゅつ)型」で、全体の90%を占める。網膜に浮腫(ふしゅ)や出血を起こして急激に視力が低下してしまい、失明してしまう人の大半がこのタイプだという。

この滲出型の中でもアジア人の男性に多いといわれるのは、「ポリープ状脈絡膜血管症」(PCV)という特殊型の疾患タイプ。このPCVはいわば「目の動脈瘤(りゅう)」で、初期は視力が保たれているため発症に気付きにくいが、出血リスクが高い。診断にはインドシアニングリーン蛍光造影法が有用だが、この診断ができる施設でしか確定診断ができず、医療機関でもまだ十分に知られていないケースがあるとされている。

加齢黄斑変性にはいくつかのタイプがあるが、アジア人には滲出型が多い

PCVという特殊型のタイプは目の動脈瘤とも言え、気付きにくい

だが近年、加齢黄斑変性は治療法が大きく進歩してきており、「抗VEGF薬」の投与で視力の改善・維持が可能となっている。デンマークでは、この抗VEGF薬の登場で人口10万人あたりの失明者が52.2人から25.7人に減少している。

この抗VEGF薬には、計画的な治療法「プロアクティブ投与」という投与方法が採用されている。病態の悪化があった場合に事後的に投与するのではなく、病態の悪化を避けるために事前に計画した適切な間隔で投与する方法だ。それをさらに、患者の状態に合わせて投薬のタイミングを変える個別化治療「トリート&エクステンド」という方法が効果的とされている。

デンマークでは抗VEGF薬により失明者が減少

プロアクティブ投与が効果的とされる

飯田教授は、「加齢黄斑変性の治療は悪くなってからではなく、わずかでも疾患が認められれば治療を開始でき、進行を抑えられる」と解説。継続的な治療を続けることで滲出の再発を予防し、視力の低下を防げるのだ。

目の違和感を「老化」で片付けない

加齢黄斑変性は近年になって患者数が増えており、昨年の調査では日本における視覚障害原因の第4位(10.2%)となっている。しかし、9割前後が認知している白内障や緑内障などに比べ、加齢黄斑変性の認知率は約5割と低い。

見えづらさが、疾病から由来すると考える人も少ないようだ。例えば、自分の親が新聞を広げて「最近文字が見えづらくて……」などと話した際、「まぁ、もう年だからしょうがないよ」という具合に返答した経験はないだろうか。実際に意識調査でも、親や祖父母が目が悪くなった場合に「病気を疑う」と回答したのは13.4%にすぎなかったという。

日本における視覚障害原因の第4位が加齢黄斑変性

加齢黄斑変性の認知率は低い

だが、加齢黄斑変性は進行すると日常生活への影響が大きい。文字が読めず、見えないので調理や外出も危険が伴い、家族のサポートが必要になる可能性も高い。もし、親や祖父母が目の違和感を訴えた場合には、「老化だから」と片付けずにきちんと病院で診断を受けさせることが最善だ。

加齢黄斑変性は、早期に治療を開始すれば進行の悪化を防ぐことのできる病気。「病気についての認知を高めることで、病気に早く気付き視力を保つことができる。今後も多くの人に加齢黄斑変性を知ってほしい」と、飯田教授は話す。発病のコア世代である50代だけでなく、子や孫世代も病気に関する認知を高め、目の健康を長く維持できるように心がけたい。