米FRBによる利上げ観測が高まる、「年内利上げ」発言も

5月28日、東京市場でドル円は124.28円をつけた。リーマン・ショック前の高値124.14円を上回り、約12年半ぶりの高値だった。ドル高円安が進んだ背景は、米FRB(連邦準備制度理事会)による利上げ観測が高まったことだ。4月の耐久財受注や5月の消費者信頼感指数など米国の経済指標が市場予想を上回ったことに加えて、イエレンFRB議長から「年内利上げ」発言が出たことが大きかったようだ。

イエレン議長(出所:FRB)

イエレン議長は、5月22日の講演で、「経済が私の予想通りに改善を続けるならば、年内のいつかの時点で利上げを開始するのは妥当だ」と語った。講演は、議長が学生時代を過ごした北東部のロードアイランド州で行われた。同州は、リーマン・ショック後の景気後退からの回復が全米平均と比べて遅れているとされる。その地で、議長は敢えて「経済の向かい風」は弱まっているとして、利上げ発言を行ったのだ。議長は向かい風として、「住宅バブル崩壊の影響」、「連邦政府および州地方政府の財政緊縮」、「世界経済の軟調」を挙げた。

「正常化のペースはゆっくりとしたものになる可能性が高い」

もっとも、イエレン議長は、「正常化(政策金利を景気刺激的でも景気抑制的でもない水準に引き上げること)のペースはゆっくりとしたものになる可能性が高い」と述べ、正常化には数年かかるとの見通しを披露した。議長はさらに「金融政策の行方は今後の経済データ次第だ」と強調することも忘れなかった。

イエレン議長の講演から4日後の26日、フィッシャー副議長が、かつて自身が中央銀行総裁を務めていたイスラエルで講演を行った。副議長は「FRBとグローバル経済」と題する講演の中で、「予測の不確実性という制約があるなかで、(金融政策の)先行きに対して市場に準備させるために、出来る限りのことをやってきた」、「正常化のタイミングやペースに関して、市場は驚くべきではない」と語った。

フィッシャー副議長(出所:FRB)

フィッシャー副議長は、早期のゆっくりとした利上げと、遅くて大幅な利上げとの間で議論していることも明らかにした。副議長はイエレン議長のように、利上げのタイミングに言及したわけではないが、利上げの接近を市場に意識させるのに十分だったようだ。

次回FOMC(連邦公開市場委員会)は6月16-17日に開催される。かつては「利上げ開始は2015年半ば」との見方もあったが、4月のFOMCでは「多くの参加者が6月の利上げはありそうもないと考えた」ことが明らかになっている。それでも、利上げのタイミングや条件に関して何らかのヒントが示されるか、大いに注目されよう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。2015年5月29日にWEBセミナー「マーケットリサーチ・レーダー:6月の投資戦略の探求」を開催する。詳細はこちら