円頓寺(えんどうじ)の「西アサヒ」(名古屋市西区)と言えば、名古屋の喫茶店好きなら知らない人はいないほどの名物店。昭和初期に創業した名古屋屈指の老舗喫茶店として愛されてきた。その代名詞的一品「たまごサンド」がいま、注目を浴びている。
星3つを獲得したたまごサンド
このたまごサンド、ただのたまごサンドと思うなかれ! フワフワアツアツの厚焼き玉子とシャキシャキのキュウリもみがフカフカのパンにはさんである、とにかくやたらと擬音で表現したくなる魅惑のサンドイッチなのだ。
西アサヒそのものは、フジテレビ系列「とんねるずのみなさんのおかげでした」のコーナー「きたなシュラン&きたなトラン」でも紹介されたことがあるお店。決してきれいとは言えないが、そこで星3つを獲得した通り、たまごサンドは文句なしにウマいと評判だった。
だが、西アサヒは店主の体調不良で2014年から休業。またひとつ、名古屋から歴史ある喫茶店が消え、あのたまごサンドも食べられなくなってしまうのか……。そう誰もがあきらめかけていたところに飛び込んできたのが、「西アサヒ復活! 」の朗報である。名古屋の旅行業者と地元商店街らの共同で、旅行者向けのゲストハウスとしてこの4月1日にリニューアルオープンすることになったのだ。
しかも、喫茶店だった1階部分は以前と同様に誰もが利用できる喫茶兼食堂になり、うれしいことにあのたまごサンドも復活を果たした。
近似度は90点、味は文句なし!
このたまごサンド復活には、僭越(せんえつ)ながら筆者も少し関わっている。あまり知られていないが西アサヒには名古屋市内に姉妹店が1軒あり、そこにもやはりたまごサンドがある。筆者は2014年に発刊した書籍『続・名古屋の喫茶店』でこの西アサヒ天池店(名古屋市昭和区)を取材していて、2015年2月に天池店のママさんと新生・西アサヒのスタッフを引き合わせたのだ。なお、天池店のたまごサンドは「エッグサンド」(540円)と命名されている。
天池店のママさんは「レシピなんかないよ! 」と言いながらも、「とにかくバターはたっぷり使うんだよ」など調理のポイントをあれこれと伝授してくれた。さらに、「使わないから持っていきな」と西アサヒのマッチを何ケースも分けてくれたのだった。
新生・西アサヒの料理長である村山豊さんは、この天池店で食べた創業者直伝のたまごサンドの味を"舌コピー"して試作を繰り返した。さらに、地元商店街の人たちなどかつての味を知る人に試食してもらって、西アサヒの味の再現に挑んだのである。
「『もっとバターが利いていた』『いや、これではバターが利きすぎ』『キュウリもみはもっと辛かった』『いや、もっとあっさりしていた』と人によって言うことがバラバラ。パンの切り方ですら『四角だった』という人もいれば『いや三角だ』という人も(苦笑)。天池店で食べたたまごサンドは、卵自体にはあまり味をつけていなかったので、余計なことはせずにシンプルに作ることを心がけました」と村山さん。
筆者も実食させてもらったが、オリジナルにかなり忠実な印象。卵のフワフワ感、バターの利き具合、キュウリもみの塩加減、どれも90点といったところ。点数はあくまでオリジナルとの近似度なので、完成度そのものは文句なしで満足できるものに仕上がっている。
オリジナルとの違いを自分の舌で確かめてみたい、という人は天池店にも足を運んで食べ比べてみるのもいいだろう。ただし、天池店のたまごサンドは価格を抑えるために卵は2個。円頓寺の西アサヒは卵3個を使った分厚さが特徴で、新生・西アサヒではこれにならって卵3個使用している。価格も旧・西アサヒに倣って700円にした。
他にも新・西アサヒでは世界各国の料理も取りそろえ、喫茶だけでなくレストランとしても利用できる。とはいえ、やっぱり元祖の味を受け継ぐたまごサンドは味わってもらいたい。たまごサンドの提供時間はランチタイムと喫茶タイムが基本だが、夜も要望があれば作ってくれる。
名古屋観光の拠点にも
食事だけでなく、ゲストハウスとしても魅力的。築80年の歴史を感じさせる和の雰囲気を残しつつ、ボックスベッドやキッチン、シャワールームなどを完備し、外国人観光客には大いにウケそう。ベッドなら1泊3,240円、個室でも2人で1万1,880円と宿泊料も格安。名古屋駅にも名古屋城にも近く、滞在して名古屋や周辺の観光をたっぷり楽しむにはうってつけだ。
店は円頓寺商店街の東寄りの一角にあり、名古屋駅と名古屋城のちょうど中間に位置する。レトロなムードが残る円頓寺界隈は、ここ数年で新しい飲食店などが続々オープンし、散策エリアとしても人気が高まっている。そんな名古屋の旅の思い出に、絶品たまごサンドも加えていただければと思う。
●information
喫茶、食堂、民宿。西アサヒ
愛知県名古屋市西区那古野1-6-13
喫茶と食堂は月曜日・第3日曜日休業
※記事中の情報・価格は2015年3月取材時のもの。価格は税込
筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)
名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。2014年10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。