特別番組『検証・エアアジア墜落事故』が、5日22時からドキュメンタリーチャンネル「ディスカバリーチャンネル」で放送される。

特別番組『検証・エアアジア墜落事故』

2014年12月28日にインドネシアで発生したエアアジア8501便墜落事故。乗客155人と乗員7人を乗せたエアアジア8501(以下QZ8501)便はインドネシアからシンガポールへ向かう途中で突然消息を絶った。その後の捜査で、ジャワ海に墜落したことが判明。同番組では、著名な専門家への取材をもとに、過去の航空機事故と比較しながら、事故の真相と現代航空技術が直面する問題を検証する。

民間航空機事故の原因として主に挙げられるのが、計器や機体の故障、人的ミス、悪天候の3つ。QZ8501便のイリヤント機長は53歳の元空軍パイロットで飛行時間2万時間超のベテラン、フランス国籍のレミ・E・プルセル副操縦士は2,000時間超の飛行を経験していた。QZ8501便は高度9,800メートルを巡航中に進路を左へ変更し、60秒後には約1万1,600メートルに急上昇した。自動操縦であれば、通常その3分の1以下。60秒での約1,800メートルの上昇は異常な数字だが、上昇気流に巻き込まれた可能性も高いという。

急上昇後に起こることとして専門家の意見が一致しているのが「失速」。翼を流れる空気の乱れが失速を引き起こし、機体は重力に勝てずに落下する。この状態になるとエンジンは無力で、機体の制御が難しくなる。また、高度と速度には関連があり、高度を上げていくと、飛行可能な最低速度と最高速度の数値が近づいていく。

QZ8501便のように高所を飛行する際は最低速度と最高速度の差が縮まり、その"コフィン・コーナー"と呼ばれる飛行可能な範囲を外れると失速は免れなくなってしまう。しかし、先述のとおり機長はベテラン。失速の対応もパイロットが最初に教わることの1つであるため同番組では「失速からの回復は十分可能だった」と見ていて、操縦不可能な事態は外的要因が関係しているとも考えられる。

2009年6月1日に発生したエールフランス447(以下AF447)便墜落事故は、計器の故障が原因だった。乗客乗員約230人が搭乗したAF447便は、リオデジャネイロを出発してレーダーから消失。その後の捜索活動に携わった調査官は、QZ8501便と共通点が多いと指摘する。AF447便は熱帯収束帯で悪天候に遭遇。機体の表面に設置されている対気速度を測定する装置「ピトー管」が凍結し、コンピューターがシャットダウンした。

そのため、パイロットは自動操縦なしでの高所飛行を余儀なくされ、実際は速度超過していなかったが誤解して減速したために失速し、沈むように落下した。QZ8501便が墜落した当日の気象衛星データを見ると、上空は嵐で雲が多く、最低気温はおよそ零下80度。ピトー管を温めるヒーターが故障したと仮定すると、ピトー管が凍結してこの状態に陥ったことも十分考えられる。

そのほか、落下中に空中で爆発したという報道もあったがその可能性は低いという。ジャワ海で発見された残骸の位置を基に専門家が分析したところ、胴体の後部が最初に海面に激突した形跡があり、ボイスレコーダーの音声にもパイロットが最後まで墜落の回避を試みようとする一部始終が記録されていた。

過去50年間の多数の航空死亡事故は悪天候が原因で発生した。今後も気候変動や地球温暖化が進行すれば嵐が起こりやすくなり、その危険性がさらに増すという専門家の指摘もある。また、航空事故の約8割は予測不可能な要素が原因で、その1つが人的ミス。今では「自動車よりも安全」といわれるほどに進化した航空機だが、操縦が高度に自動化された現在こそ複雑なシステムの習熟がパイロットに求められ、それに伴い、緊急事態発生時に手動で操縦する訓練もさらに必要となる。

QZ8501便の機種「エアバスA320」は最新技術を搭載した単通路型のベストセラー機で、自動操縦システムは計7台のコンピューターで構成されている。QZ8501便が赤道に近づく頃、ジャワ海上空の天候が悪化。管制官に連絡を取り、左への進路変更と上昇の許可を求めたが、周辺空域が混雑していたため、管制官はその要請を拒否。他機は違う高度を飛行中で約9,800メートルにいたのは同便だけだったため、パイロットは巨大な嵐を前に「進路を変更すべきか否か」の選択を迫られた。そして、QZ8501便は進路を左に変更。その後に急上昇した理由はいまだ解明されていない。

悪天候を完璧に回避するテクノロジーは今のところ存在しないが、紫外線レーザーを照射して前方にある水滴の散乱光を測定する探知装置が実用化に向けて研究が重ねられている。また、レーダーによる飛行監視システムには穴があり、航空機と管制官の位置情報の交信では間隔が10分以上開くこともあるが、エアリオン社が衛星と連動するシステムを2018年から運用開始予定。地球全体をカバーする衛星が航空機からの位置情報を受信して管制官に送信するGPSのようなシステムで、飛行中の位置をリアルタイムで把握することができる。これにより、管制官が航空機から高度変更の要請を受けた場合も迅速な対応が可能となり、今後はQZ8501便のような事故を未然に防ぐことができる可能性も高まるといわれている。

同番組の初回放送は5日(22:00~23:00)で、9日(1:00~2:00)と16日(8:00~9:00)にも再放送される。

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