ドラマ界を代表する脚本家たちがそろい、前評判の高かった2015年の冬ドラマ。『デート』『ゴーストライター』『流星ワゴン』などのように「最後まで見てよかった」という好意的な声が挙がる一方で、いつになく目立っているのは「後味が悪すぎる!」「見なきゃよかった。時間を返せ!」などの猛バッシングだ。
実際、『相棒』では、杉下右京(水谷豊)の相棒・甲斐享(成宮寛貴)が犯罪者であることが発覚して逮捕。『○○妻』では、ひかり(柴咲コウ)が暴漢による事故で死亡。『ウロボロス』では、散々苦しんだ龍崎イクオ(生田斗真)と段野竜哉(小栗旬)の主演コンビが一緒に死んでしまった。
80~90年代のドラマはこのような結末も多かったが、21世紀に入ってから圧倒的に多かったのはハッピーエンド。ここにきて、なぜバッドエンドが続いたのか? なぜここまで批判が集まっているのか? その理由を探っていく。
罪を犯した人を幸せにしてはいけない
最近のドラマ視聴者は、昨年ヒットした『ドクターX』『HERO』のような「よく言えば安心感があり、悪く言えば予定調和型」の作品を好む。中でも大半のテーマは勧善懲悪。2013年夏の『半沢直樹』フィーバー以来、とにかく「主人公が悪をやっつける」形式のドラマが中心になっている。
その意味で、"過去に罪を犯した主人公"の『○○妻』『ウロボロス』は、結末が難しかった。制作サイドの頭に浮かぶのは、「罪を犯した人をハッピーエンドにしていいのか?」という思い。そこでバランスを取るために、「ある程度の目的を果たさせた上で死なせてしまう」という結末を選んだのではないか。しかし視聴者はあまのじゃくであり、「過去に罪を犯した人は幸せになれないということか!」と言われてしまうのだから困ってしまう。
また、日ごろから不況や事件・事故などで閉塞感が漂っているせいか、視聴者の「ドラマは無料で見られる大衆娯楽。だからストーリーの中に救いを求めたい」という意向が強くなっている。さらに、ネットやモバイルの発達で、自分の好きなだけを好きなときに見られる環境が整い、意にそぐわないものは強く拒絶されるようになった。だから今回のバッシングは、「たかがドラマ」と分かっていながら、「それでもバッドエンドは嫌だ」と主張しているのではないか。
「視聴者を裏切りたい」脚本家心理
しかし、脚本家にしてみれば、「そういうわけにはいかない」というのが本音だ。基本的に脚本家が書いているのは「人間ドラマ」であり、その軸となるのは人間の業や本質。『○○妻』の脚本家・遊川和彦のような「オリジナルにこだわる」脚本家は、なおさらそこにこだわっている。
遊川に限らず作家性の強い脚本家は、「先の読めるドラマは書きたくない」「今の世の中、単純なハッピーエンドの方がウソくさい」と思っている。例えば、冬ドラマで『問題のあるレストラン』を手がけた坂元裕二もその一人。同作もバッドエンドとまではいかないものの、最終回は「ささいなクレームで店を閉める」という厳しい展開だった。また、『デート~恋とはどんなものかしら~』を手がけた古沢良太もハッピーエンドにしたものの、最後まで普通の恋愛を描かず、視聴者の裏をかこうとしていた。
これらの展開や結末は、いわば"ドラマに強い思い入れを持つ脚本家のアイデンティティ"。『○○妻』の遊川と『ウロボロス』の古家和尚が、「これはただのバッドエンドではないから、よく考えてみて」と言っている声が聞こえてきそうだ。
ただ、『相棒』は少し事情が異なる。最終回の脚本を担当した輿水泰弘は、2000年の2時間ドラマ時代から全シリーズを手がけるメインライター。杉下右京の相棒も3人目であり、「これまでにない形で」という思惑が働いたのは明白だ。意図としては「ファンを驚かせたい」「マンネリを避けたい」ということかもしれないが、視聴者が「これだけは嫌」と考える最悪の方法を選んでしまった悲劇のような気がする。
批判覚悟で選んだ勇気ある結末
そもそもバッドエンドでこれだけ騒がれているのは、「視聴者がそれだけ作品や主人公に感情移入している」から。とりわけ幅広い年代のファンを持つ『相棒』は、15年間にわたって培った信頼関係をいきなり壊されたような感覚があるのだろう。制作サイドにとって、耳の痛い話である以上に、「それだけ支持されていたのか」とあらためて感じたのではないか。
ツイッターやSNSなどがこれだけ発達し、コンプライアンスやクレーマー対策が必要な今、連ドラ制作は、かつてないほど困難なものになっている。一話ごとに「ああだこうだ」と多様な予想をされたり、「あのセリフはモラハラだ」と苦言を呈されたり、視聴率だけクローズアップされたり、制作サイドへの逆風は強い。
当然ながらドラマをどう見るかは個人の自由だが、今回挙げた3作の制作スタッフが「勇気を持ってバッドエンドを選んだ」ことはぜひ覚えておいてほしいと感じる。今クールも初回を見ただけでハッピーエンドが頭に浮かぶ、予定調和型のドラマが多かった。それだけに「批判覚悟でさまざまな結末を見せようとする」姿勢が個人的にはうれしいのだ。
もちろん"夢オチ"や"記憶喪失オチ"のような超禁じ手だけは、絶対に選んでほしくないのだが……。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。