大根、牛蒡、白菜、豆腐…。日本食に欠かせないこれらの食材を車にいっぱい詰め、日系人や中国人、在住邦人宅に訪問販売しているディオニシオ・カプチャ・イラリオおじさん(77歳)。ペルー在住者の間では、「野菜オヤジ」「豆腐おじさん」などの愛称で呼び親しまれています。
■これまでのキャリアと今の仕事について教えてください
わしゃアンデスの町、ワンカベリカの生まれでの。13歳の時、一人でリマに出て来たんじゃ。最初はカリャオ(リマに隣接する都市)の日系人、アウグスト・トウヤマさんの豆腐工場で働いた。でもトウヤマさんが工場をたたんで日本に行っちまってよ。わしより年寄りじゃから、もう死んでるかもの。で、その後リマのヒガシオナさんのとこ、これまた豆腐工場で働いて、1960年ごろからニシヤマさんとこでずっと働いた。今、わしが売ってる豆腐は、ニシヤマさんの豆腐さね。でも雇われの給金は僅かなもんさ。やっぱり自分で売るほうが金になるってんで、それで日本食材の販売を始めたってわけよ。最初は自転車でね。トラックも持ってたけど、酔っぱらって壊しちまった。はっはっは。今のワゴンに変えたのは最近よ。とにかくわしは、日系人とずーっと一緒に働いてきたんだ。
今扱ってる食材は、日系人や中国人が育てている野菜20種類ほど。夏はゴーヤやヘチマ、オクラ、ナス、キュウリなんかが出る。冬は大根、牛蒡、冬瓜、里芋かな。あとは乾麺、ぎょうざの皮、豆腐、揚げ、かまぼこ、餅、せんべいなど。出汁の素やみそ、ごま油なんかもあるよ。それを朝8時から夕方4時くらいまで売ってまわる。でも毎朝足りないものを仕入れにいくから、家を出るのは朝の5時だ。
■現在のお給料はどうですか?
週5日、1日30件ほどのお宅を回るかな。1軒あたりの売上は、20~50ソレス(約780~1,950円)とバラバラだ。時には一家で豆腐一丁(8ソレス/約310円)しか買ってくれん場合もあるから、なんとも言えんがの。昔はもっと売れたけど、今はスーパーやらメルカド(伝統的市場)でも、豆腐やネギ、白菜なんかを扱うようになったから、売上は随分と減っちまったわい。
■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?
そりゃ慣れてるってことだね。若い時からずっと豆腐や野菜を売ってきた。それに、独立してるってのはいいことだ。自分がやりたいようにやれるんだからな。
■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?
難しいことなんかないが、今は競合相手がいっぱいだから、商売は厳しいねぇ。それにもう一台車があったらもっと商売ができるけど、人を雇うのは難しい。以前雇っていた運転手も、「もっと給料をあげろ」ってうるさかった。今は息子と二人でやってるから、ま、トランキーロ(落ち着いている)さね。
■ちなみに、今日のお昼ごはんは?
昼は街の食堂で定食を食べることが多い。行きつけは「どんぐり」っていう日系人の店。今日の定食は、スープとオユキート・モンタード(9ソレス/約330円)。オユコっていうアンデス原産の芋を使った炒め物に、目玉焼きが乗ってるんじゃ。ただ、わしはもう年だし、量は食べれんから、スープは残すことが多い。もちろんデザートは別腹じゃ。
あと、この店は時々うちの商品を買ってくれるんで、店が忙しくない時は、それでゴーヤチャンプルーを作ってもらうよ。ゴーヤは身体にいいんじゃ。ずっと日系人と付き合ってきたから、日本の家庭料理はよく食べさせてもらったよ。今でも豆腐は食べるし、時々「ソパ・デ・ミソ(味噌汁)」も飲む。だからわしは元気なんじゃ。
■日本人のイメージは? あるいは理解しがたいところなどありますか?
日本人(日系人含む)は真面目だし、優しいし、ペルー人みたいに嘘をつかんからいいわ。はっはっは。
■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?
ケーブルテレビがないから、日本のニュースはなんも知らん。でも、地震と津波は知っとるよ。えっ? もう4年も前か? もう大丈夫か? そりゃよかった。
■休日の過ごし方を教えてください。
休みは月曜と火曜日。火曜は野菜の仕入れ日じゃが、それは息子の担当だ。わしは家でテレビをみたり、奥さんの面倒をみたりしてる。わしの奥さんは目が見えんのでの、もう治らんのよ。だから休みの日は一緒にいて、いっぱい会話するんじゃよ。
■将来の仕事や生活の展望は?
もっと儲かったら、車をもう一台買って…。んー、それは息子の時代かの。わしゃもう年だしな。神様がずっとそばにいてくれるから、それでええ。真面目にやっとりゃ、いつだって神様は助けてくれるんじゃ。え? カトリック信者かって? まあ、そうじゃよ。教会には行ったことないがな。はっはっは。