猫の毛柄、何パターン思いつくでしょうか。キジトラ、茶トラ、真っ白、真っ黒、キジ白、茶白、足だけ白、三毛、二毛など沢山ありますが、淡い色のカラーや、縞模様の違いを細かく分けると50種類以上にもなります。しかしもともとは1つの柄、キジトラの猫しかいなかったのです。

猫のミイラを調べたら全てキジトラだった

典型的なキジトラ

古代エジプトでは猫を崇拝し、遺体をミイラとして保存していました。発見された猫のミイラを調べたところ、砂漠や草原など生息地域により、若干色のつき方に違いはありますが、全てはキジトラであることがわかりました。これは猫の祖先といわれるリビアヤマネコと同じ柄です。

キジトラは英語でブラウンマッカレルタビーと呼び、黒と茶色からなり、額にM字の模様、頬にヨコシマ、体に緩やかなカーブを描くタテジマ、そして足や尻尾を囲うようにシマシマが入っています。

キジトラもサバトラもマッカレルタビー

白が入っているサバトラ猫(C)うだま

マッカレルは日本語で「サバ」を意味し、体の模様がサバに似ていることに由来します。ここでややこしいのがサバトラです。日本語のサバトラはシルバーマッカレルタビーのことで、こちらは白と黒のマッカレルタビーです。色が違いますが、キジトラもサバトラもマッカレルタビーなのです。

シマ柄じゃない猫が現れたのは2,000年前

初めてシマ柄じゃない猫が現れたのは西暦になったころだと考えられています。絵として残っている最古の猫は白黒柄で、6世紀頃のギリシャで書かれたものがあります。シマ柄ではない猫は突然変異によって生まれました。 キジトラの模様を作っている遺伝子をアグーチ遺伝子といい、この遺伝子は1本の毛を層状に染める働きがあります。突然変異により、アグーチ遺伝子が働かなくなり1本の毛が1色からなる、柄がない猫が生まれました。

左がキジトラ。右が黒猫。キジトラを飼っている方は落ちた毛を観察してみましょう、層状に色が変わっているはずです

それ以前にもいろいろな柄は誕生していたが……

単色以外にも、オレンジ色のマッカレルタビーの茶トラや、銀色のサバトラ、白黒ぶちなども遺伝子の突然変異により生まれました。こういった突然変異は紀元前にも起こっていましたが、柄が違う猫は自然環境では目立ってしまいうまく生き残れなかったのではないかと考えられます。白猫はその最たる例で、自然環境で白い動物はほとんどみることができません。

紀元後からいろいろな柄の猫が増えるのは、カモフラージュしやすい柄でなくても生き残っていけるようになった、つまりより人間と距離が近づき、目立った柄でも生きていけるようになったと考えられます。むしろ、珍しい柄の猫は人間を魅了し保護繁殖されることもあります。

シャム猫(イメージ画像)

鼻と耳、四肢の先だけが黒くなるポインテッドという柄が特徴的なシャム猫はアユタヤ朝(1350~1767年)の王室で飼われていたという記録が「猫の詩」という文献に残されています。

長毛も突然変異

長毛猫(イメージ画像)

柄ではありませんが長毛の猫も遺伝子の突然変異によるものです。暑い地域で長毛の猫が生まれても皮膚病や感染症が増え不利になり淘汰されますが、寒い地域では有利に働きます。ノルウェーのノルウェージャンフォレストキャットやロシアのサイベリアンなどは環境に適応することで遺伝子を残してきました。

まとめ

多種多様な毛柄は突然変異によるものでした。現在では代表的な11個の遺伝子の組み合わせによって猫の柄は決定します。

かつて目立つ柄の猫は、生活をする上で不利益が多く淘汰されてしまいました。しかし、現代ではむしろ人間を魅了する要因になったこと、カモフラージュする必要性が少なくなったこと、この2つが現代ではたくさんの柄の猫がいる理由と考えられています。

■著者プロフィール
山本宗伸
獣医師。Syu Syu CAT Clinicで副院長を務め、現在マンハッタン猫専門病院で研修中。2016年春、猫の病院 Tokyo Cat Specialistsを開院予定。猫に関する謎を掘り下げるブログnekopediaも時々更新。