米国の中間選挙が共和党の圧勝で終わったと思ったら、今度は日本での年内の解散総選挙がにわかに現実味を帯びてきた。解散総選挙の観測報道が過熱した11月11日の東京市場では、後場に日経平均株価が急伸。ドル円も上昇して、欧州時間に入ると一時116円台を示現した。また、日本の長期金利(10年国債利回り)は小幅ながら上昇(国債価格は下落)した。

解散総選挙観測の背景は、安倍首相が来年10月に予定されている消費税増税の先送りを決断するとの見方だ。先の衆院選での選挙公約である消費税増税を先送りする以上、改めて国民の信を問うというのが大義名分だ。

消費税増税の先送りによって、株式市場が景気の下押し要因がいったん後退する可能性を好感、また株高に加えて財政再建の遅れを懸念して長期金利が上昇というのは、やや先走り感はあるものの、ある程度は想定できる反応だ。

金融市場への影響を改めて考察する必要

一方で、円安の進行はどうだろうか。「アベノミクス=株高=円安」というこれまでの関係の「株高=円安」の部分がとくに意識されたのかもしれない。ただ、消費税増税の先送りはアベノミクスの後退・足踏みといえる。先に追加緩和に踏み切った日銀はハシゴを外されたようなもので、増税先送りなら更なる金融緩和の可能性は大きく低下するのではないか。

長期金利の上昇は「悪い金利の上昇」と解釈でき、もしそうであれば、それに伴って円高でなく円安になるのは自然かもしれない。ただ、「日本(国債)売り」と呼ぶには長期金利の上昇はごくわずかだった。

解散総選挙によって、安倍政権が再び国民の信任を得て、改めてアベノミクスの推進力が増す、そしてその中で円安が一段と進むとのシナリオが市場に織り込まれつつあるとすれば、選挙が水物であることを考えると、それこそ市場の先走りではないだろうか。

結局のところ、「解散総選挙」や「消費税増税先送り」を囃(はや)した円安の賞味期間はあまり長くないように思われる。17日発表の7-9月期GDP速報値などを受けて安倍首相がどんな決断をするにせよ、しないにせよ、金融市場への影響を改めて考察する必要がありそうだ。

もっとも、世界景気の減速懸念によって10月前半にいったん崩れかけた日欧と米国との景況感の格差、金融政策の方向感の違いは、足もとで改めて鮮明になっている。11月7日に発表された米国の10月雇用統計もNFP(非農業部門雇用者数)は市場予想を下回りはしたが、失業率の低下などによって雇用の改善を確認できる内容だった。今後の材料次第で、日米の経済ファンダメンタルズの格差を材料に、ドル高円安が進行する可能性は大いにありそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。