曹洞宗総合研究センター 就活禅実行委員会は9月13日、「第4回 就活生のための禅講座」を実施した。同講座は、就職活動について悩んでいる学生に「禅」を通じてリラックスしてもらうことを目的としたもの。本レポートでは、ちょっと珍しい就活講座の様子をお届けする。

「第4回 就活生のための禅講座」

就活生とともに坐禅を体験

講座は「就職活動とは何か?」というプレゼンテーションで開始。講師の若手僧侶が、就職活動にはストレスと自己否定はつきものであり、大切なことは「今の自分と『静かに』かつ『素直に』向き合うこと」だと語りかける。坐禅はそのための手段の1つであり、日常生活に取り入れることでリラックスできるようになるのだという。

「就職活動とはなにか」をプレゼンテーション(曹洞宗総合研究センター提供)

次に参加者は坐禅を体験。姿勢や足の組み方、礼拝などの作法を教えてもらい、各々座布団の上へ。足を組んだ直後は、お尻が痛い…足がしびれそう…とごちゃごちゃ考え事をしてしまう。だが呼吸を整えるうちに、頭がすっきりし、あっという間に時間がたった。

足の組み方(曹洞宗「坐禅のすすめ」リーフレットより)

「呼吸を整えること」がリラックスの第一歩

続いて行われたのは「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)ワークショップ」。「行住坐臥」とは、「歩く」「立つ」「座る」「寝る」という日常の基本的な動作を表す用語だ。参加者は、朝起きてから会社の面接会場へ行き、面接を終えて帰宅してからベッドに入るという就職活動中の1日をシミュレーションする。

まずは「行」。朝起きてから最寄りの駅まで徒歩で向かっている状況を想定し、はだしで畳を踏みしめながら歩きまわる。次に「住」。電車に乗り込み、目的地周辺の駅に向かうという設定の元、両足が自分の体重を支えていることを意識する。

続いては「坐」。面接者控え室で自分の番を待ちながら、イスに座っているというシチュエーションである。重要なのは、「面接前で緊張している自分」を受け入れること。「目を閉じて自然に任せてゆっくり呼吸」するようアドバイスを受ける。最後は「臥」。帰宅して寝る前を想定したシーンで、参加者は会場に大の字に寝転がり、手足の力を抜いて腹式呼吸をする。

ワークショップのポイントは、緊張の極限に達する状況の中で、いかに力を抜くかということ。「呼吸を整えること」は、緊張やストレスを和らげる第一歩なのだそう。就職活動で「緊張しちゃって面接がうまくいかない」という学生は、呼吸を整えるところから意識してみてはいかがだろうか。

「行住坐臥ワークショップ」で緊張を和らげる練習をする(画像提供:曹洞宗総合研究センター)

行住坐臥を体験した後は、お茶を飲みながら、就職活動について参加者が語り合う座談会を実施。仕事選びから面接での悩みまで、様々な話をして講座は終了した。

曹洞宗の若手僧侶がワークショップを企画した理由

しかし、なぜ曹洞宗の人たちがこのような会を行うようになったのだろうか? その理由について、「2012年の報道で就活の悩みで自殺した学生が2.5倍になったことを知ったのがきっかけ」だと阿部さんは語る。

阿部さん「実は私も、就職活動をした経験があります。最後まで就職先が決まらなくて、結局バイト先から正社員になりました。僧侶を目指すようになったのは社会人になってから。親戚がお寺だったのです。いくら景気がよくなっても、悩んでる人は悩んでいるはず。今後また景気が冷え込む可能性もありますし、ほそぼそとでも活動を続けていけたら、と考えています」

澤城さん 「ワークやプログラムはオリジナルで考えて改良しています。臨場感を大切にして、就活に特化した状態をイメージしていただきたいと思って構成していますね。心の安定へ導いていきます。若い世代の僧侶は、様々なワークショップに参加していたりもしますので、新しいやり方を輸入したり、一般的な"説法"のイメージとは違うかもしれません。受付の者はデニム柄の作務衣ですからね(笑)。いろいろ全員の力を集めて、活動に還元していければと思っています」

「就活生のための禅講座」を開催した理由を説明してくれた、澤城さん(左)と阿部さん(右)

就活坐禅会の告知をしたところ、「お坊さんに就職活動のことがわかるのか」「宗教の勧誘じゃないか」と一部反発も受けてしまったという。それでも「就活生のためなら定期的に行っていきたい」と語ってくれた。

まとめ

今回実際に学生とともに講座に参加して感じたことは、「坐禅」とは自分にじっくり向き合う姿勢の1つなのではないかという。頭の中でモヤモヤと渦巻いていた不安なども、足を組んで目を閉じるとスッと消えていく瞬間がある。今回の取材は、「禅」と「就職活動」という組み合わせの物珍しさに引かれておじゃましたのだが、自分自身に向き合う貴重な時間を与えられたと言えるかもしれない。

ワークショップの企画運営を行った曹洞宗若手僧侶の皆さん