29日(日本時間30日午前3時)にアメリカでFOMC(金融政策決定会合)の結果が公表された。予想通り、QE3(量的緩和第3弾)は今月で終了することになった。サプライズ(驚き)だったのは、声明文が「タカ派寄り(米労働市場が改善しつつあることを認める内容)」に修正されたことだ。これを受け、ドル高(円安)が進んだ。

(1) 「未活用の労働資源は少しずつなくなりつつある」に驚き

量的緩和の終了は予想通りで、サプライズはなかった。市場が注目しているのは、緩和終了後、いつ利上げ(引き締め)が実施されるかだ。FOMC声明文にどのような表現が盛り込まれるかが注目されていた。

  • 「資産購入終了後も、相当な期間、緩和的状況を維持」という表現は今回も残った

一番、注目されていたのは、「相当な期間」という表現の有無だった。そこは残った。ただし、「相当な期間」とはどのくらいの長さか、特定の期間を意図するものではないと、米FRBは利上げまでの期間について言質を与えないようにしている。

  • 「未活用の労働資源はなくなりつつある」に文言修正

前回(9月)FOMCでは「著しい未活用の労働資源が存在する」という表現があったが、今回、そこが修正された。市場では、来年10月くらいに利上げがあるとの見方が広がっていたが、今回の表現修正を受けて、「利上げ実施が幾分早まる」との感触を得た人が増えた。

この文言修正を受け、為替市場でドルが全面高となり、一時、1ドル108.95円をつけた。ただし、米長期金利がやや上昇したことを受けて、29日のNYダウは、前日比31ドル安の16,974ドルとなった。

(2) 日本の景気実態も、一時懸念されたほどは悪くない

29日の日経平均は、224円高の15,553円だった。9月の鉱工業生産が前月比2.7%増と事前予想(2.2%増)を上回り、買い安心感が広がった。

鉱工業生産指数(前月比)

(出所:経済産業省)

注目の9月の鉱工業生産は、前月比2.7%増だった。8月の生産が前月比▲1.9%でプラス転換を予想していた市場に大きなショックを与えた。2-8月にかけて生産の減少トレンドが明確になったことから、日本は「ミニ景気後退」にあるとの見方が広がった。

8月まで、生産が落ち込む中、在庫が増えてきていたので、9月の生産も大きな回復は見込めないと考えられていた。とりあえず、+2.7%増で、生産底割れにはならなかった。ただし、10月の計画前月比▲0.1%であり、足元の回復力は鈍いままとなっている。

(3) 米FOMCが日経平均に与える影響

アメリカの金融緩和が終了したことは、予想通りで影響はない。ドル高(円安)が進んだこと自体は、日本株にプラスで、CME日経平均先物(円建て)は日本時間5時28分時点で、15,670円まで上昇している。米景気が堅調であることを確認したことも、日本経済にとってプラス。ただし、米早期利上げの懸念が生じる可能性には注意が必要だ。

日経平均週足:2012年12月~2014年10月29日

(出所:楽天証券経済研究所が作成)

アベノミクスがスタートした2012年以降、日経平均は3回、大きな調整に見舞われた。3回の調整はいずれも、海外要因から外国人投資家が日本株を売ってきたことから起こっている。 ものすごく単純化して考えると、3回の調整は、すべて根っこには、アメリカの金融緩和終了への懸念がある。アメリカの金融が引き締まると、世界の金融が引き締まるから、ヘッジファンドは、アメリカの金融が引き締まる気配を感じるだけでリスク資産を売り始める。そこに、世界景気の減速やエボラ出血熱への不安が重なり、売りが売りを呼んで一時世界同時株安に発展したのが今回10月の状況だった。パニック売りは既に収束しつつあるが、市場センチメントは移ろいやすいので、米利上げに関する要人発言には、これからも注意が必要だ。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。