横浜国立大学の田中英登教授

気象庁が発表した3カ月予報によると、今年の8月から10月までの気温は平年並みか平年より高くなる見込みだという。となると、注意したいのが熱中症だ。ただ、その熱中症にも異なる3つの症状があるのをご存じだろうか。場合によっては死に至る可能性もある熱中症について、横浜国立大学教育人間科学部で教鞭(きょうべん)をとる田中英登教授に話を聞いた。

熱中症は「健康障害」

田中教授は「暑い環境で起こる健康障害」が熱中症の一つの定義にあたると話す。その「暑さ」も相対的な暑さいうことで、「何℃からが暑い環境」ということは正確には決まっていない。

すなわち個人差があるため、他人は暑そうにしていなくても自分が「暑い」と感じたら、熱中症に注意しないといけないというわけだ。仮に屋内にいて睡眠をしているときでも、寝苦しさが伴い、汗をかいていくと熱中症になる可能性がある。

暑さを感じる3要素

人は「気温が高い」「湿度が高い」「輻射熱(高温の壁などからの放射によって伝わる熱)が強い」という要素が複合的に絡み合うことで暑さを感じる。人間の体は構造上、39~40度までの体温には耐えられるようにはなっている。ただ、40度は細胞変性を起こすレベルでめったにならないため、そこまで問題視することはない。

だが、「38~39度は運動中になることがよくあります。そのときの体温をどれぐらい長い時間持続してしまったかが重要です。その時間の長短で体調が変化し、そのときの変化を熱中症と呼ぶのです」(田中教授)。

熱中症の3つの段階

あまり知られていないかもしれないが、熱中症には重度に応じて3つの段階がある。

熱失神・熱けいれん(重度1)

「熱失神」は一般的な立ちくらみを意味し、脳への血流が瞬間的に不十分になったことにより起こる。筋肉の硬直を伴う「熱けいれん」は、いわゆる「こむら返り」のことで、発汗によるナトリウムの欠乏が原因。

熱疲労(重度2)

症状として「頭痛」「吐き気」「嘔吐(おうと)」「倦怠(けんたい)感」「虚脱感」などがある。体がぐったりする、力が入らないといったことがあり、ごく軽い意識障害が出ることもある。

熱射病(重度3)

熱疲労の症状に加え、「意識障害」「けいれん」「手足の運動障害」などが生じる。体に触ると明らかに熱いほどの高体温で、肝機能異常や腎機能障害、血液凝固障害を伴うケースもある。

この3段階のうち、現場レベルでの応急処置で対応できるのは、重度1の熱失神・熱けいれんのみ。それ以外は病院への搬送が必要となってくるので、周囲に疑わしい人がいたら、すぐに救急車を呼ぶようにしよう。

記事監修: 田中英登

横浜国立大学教育人間科学部の教授(保健体育講座)でもあり、医学博士でもある。主な研究課題は「運動時の体温調節機構に関する研究」「スポーツ活動時及び生活における熱中症予防」などで、セミナーや講演などで熱中症にまつわる正しい情報の発信にも努める。