猫の体内に入れるマイクロチップ。これを入れることにより、がんになるというウワサがネット上にはたくさんがあるが、これは本当のことなのでしょうか? マイクロチップとは何か、マイクロチップを設置することによるメリットデメリットなどを、獣医師・山本先生が解説します。

マイクロチップとは

マイクロチップとは、ペットの個体識別を確実にするための体内に埋め込む電子機器です。これを入れておくことによって、猫が脱走、盗難、災害などで行方不明などになったときに確実な身元証明になります。

マイクロチップは30年保つように設計されており、一度入れれば一生(猫の平均寿命は約15歳)機能を発揮し続けます。マイクロチップを読み取るリーダーは動物病院や動物保護センターに配備されており、当院でも迷い猫が来院した場合は最初にマイクロチップの有無を確認します。マイクロチップが入っていればデータベースを照会して飼い主さんをみつけることが可能です。

また、猫と一緒に海外へ行く際は、マイクロチップの設置が義務づけられていることが多いです。海外へ行く可能性のある猫ちゃんは予め設置しておきましょう。

個体識別以外のメリット 体温測定ができる

当院で採用しているマイクロチップは、リーダーをかざすことで体温測定が可能です。猫の体温測定では、直腸温を測定することが一般的ですが、体温計をお尻に入れることを非常に嫌う猫が多いです。体温測定可能なマイクロチップを入れておけばリーダーをかざすだけで猫を興奮させずに体温を測る事ができます。

デメリット MRI検査で邪魔になる

MRIは日本語で核磁気共鳴画像法といい、磁気を発生させる装置を使って撮影します。マイクロチップが磁気に反応してしまい、マイクロチップ周囲の画像がうまく写らなくなります。どうしても診断の障害になるときはマイクロチップを摘出することもあります。

Q and A

マイクロチップに関するよくある質問にお答えします。

■GPS機能はついていないのですか?

よく聞かれる質問ですが、GPS機能付きのマイクロチップはまだ開発されていません。確かにGPS機能があれば迷子になったときに凄く便利ですが、マイクロチップ(デストロン フィアリング社 ライフチップ バイオサーモは幅2mm 長14mm)程の小型化はできていないようです。代わりにGPS機能付き首輪はありますが、猫がつけるには大きすぎるかもしれません。

■完全室内飼いですがつける必要はありますか?

完全室内飼いでも通院時に脱走、窓から落下などで迷子になってしまう可能性はあるでしょう。また震災で飼い主と離ればなれになったときなどに使うことができます。2008年の調査では、兵庫県の普及率がもっとも高いです。これは、阪神大震災を経験したことから、マイクロチップの普及が進んだと考えられます。

■マイクチップを挿入するときは痛いですか?

いつもの注射より少し痛いです。なぜならマイクロチップを入れる注射針はいつも注射をする針よりも太いからです。皮下点滴注射をする針が直径1.2mmなのに比べてマイクロチップの針は2.0mmです。

交通事故にあっても走って逃げる姿から、猫は昔から痛みに強い動物と信じられていますが、実際のところ個体差が大きいと思います。いつもの注射を我慢できる猫はマイクロチップの装着も麻酔なしで可能です。痛みに過敏だったり、動物病院で興奮してしまう猫は避妊去勢手術等の麻酔時に装着することをおすすめしています。

■がんができやすくなると聞いたことがあるのですが……

「猫の注射部位肉腫」という猫特有の皮膚にできるがんがあります。このがんは当初、ワクチンとの因果関係が疑われていたため、「ワクチン関連肉腫」、「ワクチン摂取部位肉腫」と呼ばれていました。現在ではワクチンに限らず特定の薬剤の投与等でも起こり得ることから「猫の注射部位肉腫」と名前が変更されました。

マイクロチップも注射で摂取するのでがんの形成を促すのではないか、という推測からこのような話が広まったと思われます。ただ現在までに多くの国で数万頭の猫にマイクロチップが装着されていますが、それが原因でがんが形成されたという報告はありません。

■その他に悪影響はありませんか?

もっとも多い合併症はマイクロチップの迷入です。迷入とは、背中に設置したマイクロチップが、腕や肘の方に移動してしまうことです。マイクロチップが関節部にとどまると、猫が違和感を感じたり、外傷時に破壊されてしまう可能性があります。これは装着後数日、あまり激しい運動をしないことで防ぐ事ができます。

まとめ

マイクロチップはペットの個体識別を可能にし、もしものときに飼い主とペットをつなぐ命綱になります。またマイクロチップが普及してきた理由として別の理由もあります。それは飼い主やブリーダーの責任を明確にすることです。

マイクロチップが入っていればペットを捨てた飼い主をすぐにみつけることができますし、ペットの家族関係も把握できるので過剰な繁殖を行っているブリーダーを特定することができます。他にも遺伝病をもつ家系の動物の繁殖を防ぐ、ワクチン接種義務の管理など、多くの問題を解決できる可能性があります。日本ではマイクロチップの義務化はされていませんが、一度装着を検討しみてはいかがでしょうか。

(画像は本文と関係ありません)

■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。