Gの倒し方が書いてある書籍を探す

大好きな彼氏がいる方は、「彼氏がいてよかった」と思う瞬間、たくさんあるだろう。一緒に美味しいものを食べて幸せ、一緒に旅行に行けて幸せ、一緒に好きな映画を見ることができて幸せなどなど……。たとえばそれは、部屋にGが出現した際にも訪れる感覚かもしれない。二人でGを倒すことができた、虫に強いカレがやっつけてくれた……。でもね、でもね、でもね。アラサー独身女だと、もうね。……一人で戦うしかないのだ。

突如として訪れたヤツの進撃

あれは先週の水曜日。私は自宅で一人でシャコシャコと歯磨きをしていた。まぶたがすでにかなり重く、もう深夜23時半ごろにもなっていたと思う。うがいをして、コンタクトをはずし、髪の毛を整えてそのまま眠りにつく……はずだった。うがいをしようとコップをもった瞬間、すぐ右の壁を何かが横切った。それも、尋常ではないスピードで。

思考が停止した。立ち尽くしたまま、私の脳内グーグルで「黒 動く」と検索する。該当件数は3件。「もしかして:コオロギ」「カブトムシ」、そして「ゴキブリ」だ。さらに検索を絞り込む。今度は「黒 動く」に加え、「触角」と入力してみた。……すぐに検索結果がでてくる。「ゴ キ ブ リ」の4文字が私の脳内モニターに表示された。

顔を動かさずに眼球だけを左上に移動させる。洗面所の小さな窓がかすかに開いていた。「バカな……あの隙間は……0.8センチだぞ……。ヤツだ……!!ゴキブリだ!!」。――戦いの幕開けである。

このまま逃がすわけにはかない

しかしその瞬間、私は自分が何ら武器を持っていないことに気付いた。気づいてしまった。妖刀新聞紙。魔剣スリッパ。中距離兵器であるゴキジェットも台所用洗剤もクイックルワイパーも一切なかった。持っていたのはさっきまで口に突っ込んでいた歯ブラシだけ。

こうなったらあの最終決戦兵器を使うしかない。――そう、SU☆DEである。

もっていた歯ブラシは足手まといと判断し、洗面台に投げ捨てる。そのまま体をひねり、可能な限りの体重をかけて手刀を振り下ろす。しかしそこはゴキブリ。見事なものである。私の奥義をひらりとかわし、カサカサカサカサという音を立てて天井へと逃げる。逃してなるものか。ここで逃したらゴキブリがいるという事実が解消されないまま眠りにつくことになるのだ。真夜中に、「なんか足に猫のヒゲがあたってるな」と思って起きてみたら足先にゴキブリが止まっていたりするのだ。あんな思いはもう、二度としたくない。

身長151センチしかない私はPCチェアを持ってきて土台にし、天井にいるゴキブリを倒そうと思った。しかし、チェアへと向かおうと思ったその瞬間、ゴキブリの進撃が始まった。ヤツらのもっとも得意とする攻撃の一つ、「顔面アタック」である。

ヤツらは飛ぶ。ものっすごく飛ぶ。共通しているのは、なぜか「人間の顔面めがけて飛ぶ」ということだ。

ヤツはあまりに速かった。私のこの動体視力をもってしても、動きに目がおいつけなかった。もうだめだと思ったその瞬間――。

うちの猫がゴキブリに向かって跳び、体当たりをかました。床に倒れるゴキブリ。壁にうまく着地してUターンするうちの猫。もうだめだと思って尻もちをついた私。

――3者にらみ合う中で、最初に動いたのはゴキブリだった。ヤツは逃げようとしたのだった。

逃げようとするゴキブリ。しかし、私が望むのは逃走ではない。闘争だ。

せん滅戦は大の得意とするところ

数多のゴキブリと対峙してきた私は経験で知っている。ヤツらは、逃走をはかろうとする際、必ず狭い所に逃げ込むのだ。そうなればもうこっちのもの。後は追いこんで逃げ場をなくしたゴキブリを退治するだけのこと。

ゴキブリを追いかけていくと、案の定冷蔵庫と壁の間に逃げ込もうとするところだった。そうはさせるか。私の安眠のためにも、必ずやその首討ちとってみせる。

壁の間に入り込もうとするその瞬間、私の手刀がすさまじい勢いでくだされた。おそらくゴキブリは自分が人間に退治されたことにすら気付かないまま昇天したことであろう。一撃で仕留めることができた。痛みもきっと、感じなかっただろう。

勝利した瞬間、私は、己の勝利を体全体を使ってプレゼンテーションした。まるでオスのクジャクがメスに向かって羽を広げるかのように、勝利の舞いを踊る。一緒に暮らす私の猫は、もう二度と動くことのないゴキブリを見つめ、勝利に酔う私の姿をいつまでも見つめ続けていた。

勝利をつかんだ私

一人暮らし歴、12年。気づけば独身でアラサーの女になっていた。家には私と愛猫一匹。一人であるという現実が、「G発見から10分以内にヤツを倒せる戦闘力」を私に身につけさせた。しかし……。しかし、である。既婚の友人から「ゴキブリが出たんだけど旦那が退治してくれたの!」という声を聞くたびに、心から「……うらやましい」と思うのだった。