女性の就業拡大を成長戦略の1つに掲げる安倍内閣の方針を受けて、配偶者控除の見直しが検討されている。配偶者控除の存在が女性の勤労意欲をそいでいるという多くの識者からの指摘によって、検討が始まったものだ。

どういうことか。まず簡単な例で解説する。夫がフルタイム、妻がパートタイムで働く世帯で、夫の給与所得(給与収入から給与所得控除等を差し引いた課税所得)が年500万円、妻のパート収入が103万円の例で考える(それ以外の収入はないものとする)。

現在の配偶者控除制度のもとでは、妻の収入が103万円以下であると、夫は配偶者控除38万円の適用を受けることができる。配偶者控除を受けることで、夫は課税される所得を38万円減らすことが可能だ。500万円台の課税所得にかかる所得税率は現在20%なので、配偶者控除を受けることで、夫は納税額を7万6千円(38万円×20%)少なくできていることになる。

ところが、妻の収入が103万円超になると、夫は配偶者控除を受けることができなくなる。配偶者特別控除が受けられない場合は、夫にかかる所得税が7万6千円増える。妻は、103万円以上に収入を増やしても、103万円に7万6千円を加えた110万6千円を超えるまでは、夫婦合わせた手取りは増加しない(配偶者特別控除を受ける場合は夫にかかる税負担の増加額は異なる。詳しくは各種制度の専門家に相談ください)。そうなることを避けるために、パートに出る主婦の中には、働こうと思えばもっと働けるのに、収入が103万円以下になるように勤務時間を調整している例があるという。配偶者控除という制度が廃止されれば、女性は、103万円の壁を気にしないで、もっと働く時間を増やせるはずだ。

ただし、この議論で1つ見落とされていることがある。年齢の低い子供を抱え、育児と家事を行いながら家計の収入を補うためにパートタイムで働いている女性の存在だ。子育て支援が充実していない中で、現実には100万円を超える勤務時間を確保するのがむずかしい場合が多い。そういう家計にとって、配偶者控除の廃止は、単なる増税にしかならない。

女性の就業拡大が日本にとって喫緊の課題であることは言うまでもない。少子化が進む日本で、これから勤労人口の減少が加速する。労働者不足によって国内産業の空洞化が進むことを防止するには、なんとしても働く意欲のある女性が働きやすくなる仕組みを作らなければならない。配偶者控除の廃止は、その意味で必要である。

ただし、配偶者控除の廃止は、子育てしながら働いているために100万円以上の収入を得る勤務時間を確保できない世帯に増税になる事実も無視できない。配偶者控除の廃止と、子育て支援策の拡充は、セットで考える必要がある。

(※画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。