赤字を抱える病院が約70%にも達していると言われる中、大胆な"経営改革"を実行しようとしている医療法人がある。医療を"サービス業"と定義しなおすことで業務効率やサービスの質を高め、ブランディングを図っていこうというのだ。このミッションを遂行するため医療法人社団桐和会グループに入社した経営企画部の片岡伸子さんからお話をうかがった。

顧客満足を原点に、地域に根ざした医療法人を作ろうという理念に共鳴し、保険会社からの転進

桐和会グループは1993年に東京都江戸川区の「篠崎駅前クリニック」としてスタート。その後"アフター5診療"や"休日診療"といった患者の立場にたったサービスを提供することで支持を集め、現在は江戸川区を中心に約20の診療所を展開するほか、認知症専門病院や一般療養の病院、特別養護老人ホームなどの介護施設を運営している。そんな桐和会グループに岡本理事長のかねてからの知人だったという片岡さんが入社することになったのは2013年4月のことだ。

桐和会グループ 管理部 部長代行 片岡伸子さん

「理事長の岡本からは、以前から医療法人として発展していくためにはさらなる経営改革が必要だ、という相談を受けていました。20年かけて30施設を展開するまでに成長はしてきたものの、現場のスタッフに桐和会の目指すところを伝え切れていないのではないか、と」

片岡さんは大学卒業後、大手生命保険会社に入社。営業管理職として数多くの人材を育成してきたこともあるキャリアの持ち主。40歳を節目に、新たな活躍のフィールドを探していた。人材育成という観点からなら、桐和会グループのお手伝いができるのではないか、と考えたのが入社のきっかけだった。

「病院は医師や看護師、理学療法士、作業療法士といった専門性とプロ意識を持つプロフェッショナルの集団です。彼らに"コスト意識を持ってほしい"とか"業務を効率化してください"といった要求をしても、すんなりと受け入れてもらえるとは思っていませんでした。しかし、医療法人が生き残っていくためにはサービス業に徹しなければならない、と考えたのです」

病院がサービス業に徹しないと、患者さんに迷惑をかけてしまう。

片岡さんが"サービス業に徹しなければ生き残れない"と考えたのには理由がある。桐和会グループではクリニック、病院に加え、介護施設や保育園までを運営しているが、その全てが"利益が出るビジネス"というわけではないからだ。グループ全体の経営効率を高めていかないと、収益性の低い分野からは撤退せざるを得なくなる。しかし、それでは頼るべき存在を失ってしまう患者や利用者が出てきてしまう。

「病院は利益を追求するものではない、という意識が医療業界全体にあると感じました。医師や看護師が患者さんのために無私の気持ちで奉仕しているというのは確かにすばらしいこと。しかし、それだけでは経営が成り立ちませんし、結局のところ、患者さんに迷惑をかけることになってしまう。スタッフへの問題提起が必要だと考えました」

片岡さんは入社後、200名を越えるスタッフからのヒアリングを実施。本部と医療の現場の意識の乖離を改めて認識するとともに、改革の難しさも実感したという。

そこで片岡さんが最初に着手したのは"私たちはサービス業でなければならない"という明確なメッセージをグループ全体に発信するとともに、新卒採用のスタッフ教育に力を注(そそ)ぐことだった。

「業界経験の長いスタッフの意識を一気に変えようというのは無理な話。まだ医療業界の色に染まっていない新人たちに"企業人"という意識を持ってもらうことから始め、言わばボトム・アップでグループ全体の風土を変えていければと思っています」

「経営のプロ」を目指す人材にとって、大きな魅力を持つ業界に。

医療業界の規制緩和が進む一方、国による支援が望めなくなっている現在、病院の経営は非常に困難なものになりつつある。しかし、だからこそビジネスとしての可能性や、経営を志向する人材にとっては大きな可能性が生まれている、と片岡さんは言う。

「入社して最初に感じたのは、この業界にはITベンチャーのような大きな伸びしろがある、ということでした。病院を"経営"という観点から変革しようとしている医療法人は、まだまだ多くないのではないでしょうか。サービスの質を高め、ブランディングを進めていけば、収益性を大きく好転できるチャンスはいくらでも残されている。前職で培ってきたビジネス・マインドを生かすことのできる最高のフィールドではないか、と」

例えば、病院にはスタッフの給与設定ひとつとっても、明確な基準がない、と片岡さんは言う。スキルや努力、役割を評価する制度を策定すれば、スタッフのモチベーションも上がり、より高度なサービスの提供や業務の効率化も進むはずだ。

「病院は世の中に絶対に必要な存在です。その業界で、今後、大きな改革が進んでいく。これは大きな可能性や、やりがいのある業界で活躍したい、と考えている人材にとって、とても魅力的なこと。多くの病院には"経営専門のプロ"はいませんから、若くして大きな権限を委譲され、責任あるポジションに就くことも可能でしょう」

病院といえば医師や看護師といった"特別な人たち"が活躍する場というイメージは強かった。しかし、これからは高いビジネス・マインドを持った非・医療従事者にとっても、大きな魅力を持った就職先になっていくはずだ。桐和会グループでも、今後、自らの経営改革を支えるための本部スタッフの採用に力を注いでいくという。