今回もドラマ評論家の木村隆志が、2014年冬ドラマ全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていきます。
別記事において、今クールの主な傾向を、[1]各局が"テレ朝化"へ [2]人気原作を幅広く採用 [3]主役も脇役も"おっさん" [4]意外な2つの主演バトル の4つと分析。オススメドラマを第1位 『紙の月』、第2位 『三匹のおっさん』、第3位 『S -最後の警官-』と紹介してきました。本記事では、それらの作品を含む、今クールの各作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していきます。
作品名・放映日時・放送局 | 出演者 | 寸評&採点 |
---|---|---|
『隠蔽捜査』 月曜20時~ TBS系 |
杉本哲太 古田新太 生瀬勝久 | 同枠で好評だった『ハンチョウ』『確証』に続く今野敏原作の刑事ドラマ。キャリアの関係性や争いをここまで描いた作品は新鮮で、事件の謎解き以上に興味をそそられる。ダブル主演の杉本と古田は、すでに役をつかんでいる様子で、生瀬も含めた重厚なトライアングルは息ピッタリ。テンポの遅さは気になるが、家族関係も含め、落ち着いて見ていられる。 【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】 |
『失恋ショコラティエ』 月曜21時~ フジ系 |
松本潤 石原さとみ 水川あさみ | 「月9王道のラブストーリー」というより、「コミカルな妄想エロドラマ」寄り。初回は松本が石原を押し倒し、強引にキス。石原がベッドで布一枚の姿になるなど口コミ要素満載で、『ラストシンデレラ』のような右肩上がりの可能性もある。キャラとチョコレートが多彩で、見て楽しい作品だけに、「片想いの切なさをどう扱うか」がカギになりそう。 【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】 |
『福家警部補の挨拶』 火曜21時~ フジ系 |
檀れい 稲垣吾郎 柄本時生 | 乱立する刑事モノの中、『刑事コロンボ』『古畑任三郎』の倒叙フォーマットを採用。次号予告で「殺人者 少女漫画家 富田靖子」のテロップを出すなど、演出意図は明快で、トリック推理が好きな日本人に合う。ただ、「しつこい捜査の変わり者」のキャラに檀がフィットしきれない印象。徐々に犯人が追い詰められていくスリリングさは感じなかった。 【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『チーム・バチスタ 螺鈿迷宮』 火曜22時~ フジ系 |
伊藤淳史 仲村トオル 柳葉敏郎 | 第4弾のテーマは、終末期医療。院長一族と放射線科医をめぐるミステリーは同シリーズらしさ十分で、他の医療ドラマとは一線を画す。伊藤&仲村コンビのやり取りが絶妙なだけに、過去の作品で見られた「展開を引っ張って内容が薄くなる」演出にならないことを期待したい。栗山千明と水野美紀の女医コンビが見せるコントラストも見どころ。 【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】 |
『紙の月』 火曜22時~ NHK |
原田知世 水野真紀 西田尚美 | まず原田の色あせない透明感に驚く。貞淑な妻、若い男との浮気、1億円横領……空虚感と静かな衝動を繊細に演じている。全ての発端である夫の演出も秀逸。子作りに協力しない姿や、悪気なく放つセリフに心をエグられる。「むなしい日々の中、たまたま目の前にあった愛や金に手を出す」姿を描いた脚本は奥深い。原田は薬師丸ひろ子に次ぐ復活か。 【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】 |
『明日、ママがいない』 水曜22時~ 日テレ系 |
芦田愛菜 鈴木梨央 渡邉このみ | 「脚本監修・野島伸司」だけあって、テーマはハードこの上ない。しかし、フタを開けてみたら意外に悲劇テイストではなく、ラストも「ドキュン!(変な本名)」と笑いを入れるなど、同枠の『Mather』路線とは明らかに異なる。子役オールスターの奮闘は目立ったが、孤児のリアルさを表現できなければ、視聴者はそっぽを向く。あざとい演出に走らないことを願う。 【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆☆】 |
『僕のいた時間』 水曜22時~ フジ系 |
三浦春馬 多部未華子 斎藤工 | 橋部敦子の脚本らしく、単なる難病モノに留まらず、仕事や友情を絡めた人間ドラマに。主人公を取り巻く登場人物のキャラ演出がステレオタイプな点は気になるが、テーマを引き立てるためなら許容範囲か。ただ、ヒューマン作なのに、やたらと三浦の裸を映す矛盾は気がかり。この先、病気が進んだらどうなるのか。過剰演出がなければ、ぜひ見ておきたい。 【脚本☆☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】 |
『Dr.DMAT』 木曜21時~ TBS系 |
大倉忠義 加藤あい 國村隼 | テーマは「10秒迷えば1つの命が消えていく」災害医療。ポイントは医療技術ではなく、「緊迫感と判断能力をどう表現するか」だが、演出のテンポがスローすぎた。現場で葛藤してモタモタする主人公も、同僚や消防隊員との口論も、人命救助とは逆のベクトル。トラウマもシリアスにつながらず、難しい役だけに大倉の主演は少し早かったかも。 【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『緊急取調室』 木曜21時~ テレ朝系 |
天海祐希 田中哲司 小日向文世 | 取調室にクローズアップしたドラマだけに、名優のセリフ合戦が期待されたが、思った以上に薄味。天海をとりまく7人のオッサン刑事の技量を生かし切れていないのがもったいない。取り調べシーンに時間をさいている分、謎解きにひねりがなく、天海の活躍も少なめ。取調室での臨場感か、自白シーンのカタルシスだけでもテコ入れを望みたい。 【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆】 |
『医龍4』 木曜22時~ フジ系 |
坂口憲二 稲森いずみ 小池徹平 | 想定外の第4弾制作で、脚本家が交替。そのため設備不足や停電など、これまでよりもピンチの設定が強引になっているが、その分“チームドラゴン”のカッコよさが引き立つ効果も。絶体絶命のスリリングな状況ほど、チームの輝きが増すだけに、「世界進出か地方病院か」という見え見えのテーマをうまく落とし込めるか。池田鉄洋の残念キャラも健在。 【脚本☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】 |
『三匹のおっさん 正義の味方、見参!!』 金曜20時~ テレ東系 |
北大路欣也 泉谷しげる 志賀廣太郎 | 脚本はベタの上にベタ。でもそれが活劇の痛快さを際立たせる。携帯の着メロで歌いながら見参し、最後の一撃も脳天に「メーン」。初回から3組の悪を成敗する大盤振る舞いで、還暦3人が大立ち回り。ジイさん扱いされる北大路や、心の声のテロップを入れるなどのコミカルさも楽しい。時代劇以上に勧善懲悪を徹底した、とにかくスカッとできる作品。 【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】 |
『夜のせんせい』 金曜22時~ TBS系 |
観月ありさ 蓮佛美沙子 山本耕史 | 学園モノの教師は、普通の人がいなくなってしまったのか、今回は観月演じるスナックのママ。底抜けの明るさは、『ナースのお仕事』時代を思わせるが、演じ方が変わっていないのは、ある意味スゴイ。「一人でも退学したらクビ」の設定や、終盤の生徒が屋上から落ちそうになるシーンなど既視感が強く、『ごくせん』『GTO』『めだか』のミックス風味。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】 |
『私の嫌いな探偵』 金曜23時15分~ テレ朝系 |
剛力彩芽 玉木宏 渡辺いっけい | 脚本はコメディ名手の福田雄一。原作を大胆にアレンジし、ヒロインを「大学生のミステリーマニア」という“剛力仕様”に。その結果、剛力は持ち前の天真爛漫さを生かせるハマリ役を得た。“いかがわしい”事件やバカバカしい謎解きもユニークで、無理矢理1話完結にしない姿勢も好印象。単に「小ネタを詰め込んだ」だけの作品にはなっていない。 【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】 |
『戦力外捜査官』 土曜21時~ 日テレ系 |
武井咲 TAKAHIRO 八嶋智人 | コメディと分かっていても、主演コンビの役作りが気になる。茶髪の武井は“推理オタクのキャリア”に、優男のTAKAHIROは“武闘派”にどうしても見えない。そんな2人を盛り立てるべくてんこ盛りされたBGMにも違和感があり、犯人の子どもが銃を所持し続けているなど、事件解決の流れも不自然。ただ、関根勤とYOUは最高のアクセント。 【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『ロストデイズ』 土曜23時10分~ フジ系 |
瀬戸康史 石橋杏奈 トリンドル玲奈 | 雪山が舞台で、大学生グループの卒業旅行と80年代を思わせる設定ながら、今ドキらしい味つけはサスペンス。片想い、嫉妬、裏切りなどの恋愛感情が渦巻く中、同時進行で殺人事件が起きる。10日間を10話で描くだけに、「回を経るごとに緊迫感や犯人推理が盛り上がる」演出ができるか。キャストはほぼ7人だけに、簡単に殺すことはできない。 【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】 |
『S -最後の警官-』 日曜21時~ TBS系 |
向井理 綾野剛 吹石一恵 | 推理を楽しむ刑事ドラマばかりの中、今作はドンパチ打ちまくる。集団で銃をブッ放つなど犯人を現実より凶悪にすることで、制圧シーンのカタルシスがアップ。テイストは『半沢直樹』よろしく、リアル<エンタメで、初回のラストも壁を突き破るパンチで犯人を確保した。向井の突き抜けたキャラは、日曜劇場の枠にピッタリで、人間ドラマもしっかり。 【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】 |
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。