日本語でも、「ヤバい」「○○っすね」といった若者言葉はビジネスシーンにおいてふさわしくありませんよね。英語も同様に、失礼にあたる表現があるのでは? そこで、英語界のコンシェルジュとして活躍する、オフィス・グレース代表の荒井弥栄さんに詳しく教えていただきました。

「Sit down」はNG!

――相手に座ってもらうときには、「Sit down」というと学校で教わりました。しかし、じつは失礼にあたると聞いたのですが……。

荒井さん「このフレーズをネイティブが聞くと、『座りなさい』と捉えられてしまいます。ニュアンスとしては、先生が生徒に対して『着席』というときに近いですね。家族ならまだしも、取引先には絶対に使いません」

――「please」をつければ丁寧になりませんか?

荒井さん「たとえ『please』をつけても、命令文には変わりませんよね。せめて友だちレベルでしか使わない、カジュアルな表現です。ビジネスにはふさわしくありません。

この場合は、『(Please) Take a seat.』『Have your seat.』というべきです」

――学校で教わったからといって、どのシーンでも使えるわけではないのですね。

荒井さん「そういうケースは少なくないので、過去に習ったフレーズでも、単語の意味や構文などを再度見直したほうがいいでしょう。

英語を話すときには、会話する状況を把握することが大事。どのような場所で発するかによって、使うフレーズも異なります。たとえば日本でも、同僚にはカジュアルな表現を使うこともあるでしょう。TPOに合った会話表現があるのは、英語も日本語も同じですね」

ビジネスで使ってはいけない英語集

「日本語の意味をそのまま英語にすると、失礼になることも多いですよ」と荒井さん。そこで、ビジネスにはふさわしくない表現を教えていただきました。

●ビジネスにはふさわしくない英語集
1.お客さまを新しい社内にご案内するとき
× I'll lead you around our new office. 新しい社内を連れまわしましょう
○ I'll show you around our new office. 新しい社内をご案内しましょう

解説:「lead」には「導く」「連れていく」という意味がありますが、「lead+人+around」の場合は犬を連れまわすようなニュアンスで伝わってしまうことも。ビジネスでは使わない表現です。

2.上司に日曜出勤を打診されたとき
× I'm willing to work on Sunday. (交換条件付きなら)日曜日に働いてもいいですよ
○ I don't mind working on Sunday. 日曜日に働くのはかまいませんよ

解説:「be willing to」を「喜んで~する」と教わった人も多いかもしれませんが、じつは「断る理由がないので引き受ける」「条件付きなら引き受ける」というニュアンスになってしまいます。

3.「明日までにそれを終わらせることができません」と言いたいとき
× I won't finish it by tomorrow. 明日までにそれを終わらせるつもりはありません
○ I'm afraid (that) I won't be able to finish it by tomorrow. 申し訳ないのですが、明日までにそれを終わらせることはできません

解説:「I won't」には「~する気はない」という強い主張のイメージがあります。

4.「提案を再考したほうがいいでしょう」といいたいとき
× Why don't you reconsider your proposal? 提案を再考したらいいんじゃな~い?
○ Perhaps you should reconsider your proposal. 提案を再考したほうがいいでしょう

解説:「Why don't you~?」は「~したらどう?」という軽いニュアンスがあります。ビジネスシーンではふさわしくない表現です。

英語が話せる=ビジネスで使えるとは限らない

――ビジネスシーンで使える英語を学ぶには、どのようにしたらいいでしょうか?

荒井さん「以前もお話ししましたが、ビジネスの現場を知っている人に教わることが一番。外資系企業など、日本で仕事をしている外国人から教われるといいですね。

ただ、英語を話せるからといって教えることが上手とは限りませんので、ビジネス英語に対応したスクールや教材を選ぶ必要があります。テキストを選ぶときにも、著者の現場経験の有無をチェックするといいですね」

――帰国子女の場合はいかがでしょうか?

荒井さん「帰国子女の方たちは、ネイティブの発音が身についていることが多いです。しかし、日常会話のようにカジュアルな表現を使うことが多く、意外とビジネスシーンに対応した英語を知らないこともあります。英語が話せるからといって採用しても、商談では失礼な表現を使ってしまうことも少なくありません。

どのような場面でも、その状況に適した表現というものがあります。英語力に自信があるという人も、ビジネスシーンで本当に『使える』英語かどうか、チェックしてみるといいですね」

荒井弥栄
Office Grace代表
JALで国際線のCAとして10年以上勤務後、英語指導者に転身。エグゼクティブに特化した半年間完成プログラムで、英語だけでなく国際人として世界に通用するマナーや交渉事についてまでレッスンする。また、企業の英語研修・英語での接客を要する企業での接客英語指導・サービスマインド指導も行う。ウィットに富んだ講演やセミナーも好評。著書には2013年9月1日発売の『ファーストクラスの英会話 電話・メール・接待・交渉編』(祥伝社黄 金文庫)他3冊ある。
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