積極的に独身を貫く人が増えた昨今

独身貴族という言葉が浸透して、ずいぶん年月が経った。昨今では「結婚できない」のではなく、「結婚したくない」「独身生活をまだまだ謳歌したい」という積極的な意志のもと、30代~40代に突入してもシングルライフを続ける人が珍しくなくなった。

特に男性の場合は顕著だ。40歳を過ぎても生活の感覚が若者の独り暮らしとあまり変わらず、自由に人生を楽しもうとする。彼らは結婚する意志がないからといって、女性が苦手、あるいは興味がないというわけではなく、むしろ女性が大好きな者が多く、特定の恋人はもちろん、割り切った関係の女友達まで、実に様々なスタイルで女性と交際しようとする。すなわち、まだまだ色々な女性と自由に遊びたいのに、わざわざ一人の女性に縛られる結婚生活には魅力を感じないということだろう。ましてや子供が欲しいという願望もなければ、なおさらだ。

独身貴族のR氏--あるとき一転して考え方が変わり、急に結婚願望を口に

しかし、そんな独身貴族の中には、あるとき一転して考え方が変わり、急に結婚願望を口にする者もいる。今年の夏、46歳にしてようやく結婚したR氏もその一人だ。

それまでのR氏は、20代のころから一貫して結婚否定派だった。「結婚なんて人生の墓場だ」「一人の女に縛られるより、色々な女と自由に遊んでいたい」「子供には興味がない」「今の時代は店や物がなんでもそろっているため、独身でも不自由がない」などといった主張を口にしていたのだが、そんな彼がいったいなぜ結婚する決断を下したのか?

「それはもう単純な話で、今の生活に飽きたからですよ」

R氏が独身貴族を卒業した要因は、同じような日々が続くことに対する飽き、すなわちマンネリからの脱出だという。彼は独身生活にマンネリを感じていたのだ。

「大学を卒業してから独り暮らしを始めて、気づけば25年近く経ったんですよ。20代のころは自由な独り暮らし自体が楽しくて、好きに遊び呆けていましたけど、そんな暮らしが30代、40代と続くと、だんだん遊びにも飽きてくるんですよね。今はもう興味のある店も特にないし、色々な物を食べたいとか飲みたいとかも思わない。女遊びもそうです。色々遊んでくると、その遊びにも飽きてきて、生活に刺激がなくなってくるんです」

新たな刺激を求めて、結婚に踏み切る

R氏はマンネリ気味の独身生活に新たな刺激を求めて、結婚に踏み切ったという。

確かに、それは容易に想像できる。いくら自由な独身生活といっても、人間は結局のところ仕事をして、食事をして、酒を飲んで、友と語らって、異性を求めて、趣味を楽しんで、などといった限られたパターンの繰り返しで生きるしかない。もちろん、それらが楽しい時期もあるのだろうが、だからといって何年も同じパターンを続けられるほど人間は単純な生き物ではない。よほどのことでもない限り、人間は飽きる生き物なのだ。

また、別の男性であるG氏は36歳で結婚したものの、子供に興味がなかったため、愛する奥様との二人暮らしを何年も満喫してきたのだが、42歳になる今年から急に子作りを本格化させたという。G氏の変化の理由も以下の通りだ。

「最初は妻と二人の暮らしが楽しくて、子供はいらないと思っていたんですけど、やっぱり二人だけの暮らしというのは何年も続くとマンネリ化しますね。だから生活に変化や刺激が欲しくて、そう思うと途端に子供がいる暮らしに憧れ始めて……」

やはり、ここでもキーワードはマンネリであった。

人間の充実度は、多角的に測定されるもの

確かに言われてみれば納得がいく。たとえば愛する奥様との二人暮らしの充実度をXY座標の十字グラフで考えればわかりやすい。「幸せ」と「不幸せ」というのはX軸の両端でしかなく、人間の充実度にはそれに加えて「マンネリ」と「刺激」というY軸の両端も存在する。「幸せだけどマンネリ」「刺激的だけど不幸せ」という言葉をしばしば耳にするのは、人間の充実度は本来そうやって多角的に測定されるものだからだろう。

そう考えると、人間の文明が築き上げた一般的な人生のパターンとは、非常に良くできているのだ。人間は生まれてしばらくは赤ん坊として過ごし、何年か経つと幼稚園児になり、その後は数年ごとに小学校、中学校、高校と、その人に応じていくつかの種類の学校に生活の中心を置く。そして社会に出てからも、独身を経て結婚し、結婚後も出産や育児、子供の受験、子離れなどといった一里塚が数年ごとに待っている。

子離れにより、熟年夫婦が二度目の青春を迎えてからもそうだ。久しぶりの夫婦の時間は当初こそ新鮮で楽しいかもしれないが、それも何年も続くと飽きてくるもので、そこで子供が結婚したり、孫が生まれたりすることが、マンネリ打破の刺激になったりする。

おそらく、人間は同じような環境やパターンの暮らしを、そうそう何年も続けられないのだろう。たとえば人生を80年として、学生を卒業するのが18歳~22歳くらいだとすると、それから60年前後もの長い年月が待っているのだ。その60年を同じパターンの繰り返しで生きると考えたら、マンネリ化して当然かもしれない。

だからこそ、神様は人間の一生にいくつかの一里塚を築き、一定のタームごとに生活に変化が起きるような、すなわちマンネリ打破のトピックを用意したのかもしれない。そう考えると、人間にとって結婚願望の表出とは実に自然なことなのだ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち)
小説家・エッセイスト。早稲田大学卒業。これまでの主な作品は「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」「雑草女に敵なし!」「Simple Heart」など。中でも「雑草女に敵なし!」は漫画家・朝基まさしによってコミカライズもされた。また、作家活動以外では大のプロ野球ファン(特に阪神)としても知られており、「粘着! プロ野球むしかえしニュース」「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「野球バカは実はクレバー」などの野球関連本も執筆するほか、各種スポーツ番組のコメンテーターも務めている。

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