対局会場はロボット風のセットの正面に解説用の大きな将棋盤があり、そのすぐ上が対局場となっている。つまり、解説の声が対局者にも筒抜けになってしまうわけだが、イベント対局ではよくある設定らしい。さすがにあまりに具体的な指し手の解説をしてしまうとまずいので「これをこうやると……」などのようにぼかして話すのが解説のコツだという。
9時を回りいよいよイベントが開幕した。出場者の入場が終わると、対局開始に先立って、組み合わせ抽選が行われた。5組によるトーナメントのため、優勝まで2勝の枠と3勝が必要になる枠がある。抽選の結果、前評判で優勝候補と目されている三浦弘行九段・GPS将棋タッグと、対抗馬に挙げられていた船江恒平五段・ツツカナタッグ、相棒との不仲説がささやかれている塚田泰明九段・puellaαタッグが好枠を獲得した。
抽選が終わりいよいよ対局が開始された。まずは1~2回戦の模様をダイジェストでレポートする。なお、持ち時間は決勝戦以外は全て「1時間切れ負け」のルールで行われる。
1回線は佐藤慎一四段・ponanzaタッグと阿部光瑠四段・習甦タッグの対戦だ。
"サトシン"こと佐藤慎一四段は、第2回電王戦で現役プロ棋士として初めてコンピュータに敗れてしまった。今回は活躍して名誉挽回を果たしたいところ。
阿部光瑠四段は若干18歳の新鋭プロながら、電王戦では人間側唯一の白星を挙げた。コンピュータとは数百局もの練習対局をこなしており、誰よりもコンピュータの特性を把握している存在と言える。
いよいよ対局が始まると「矢倉」と呼ばれる戦型に進み、阿部四段・習甦タッグが積極的に攻める展開に。そして中盤に入って形勢が傾いたのが次の局面である。
図の△7三桂は、相手の攻めを防ぎながら攻めにも使おうという一石二鳥を狙った手。しかし、飛車を取られてしまう危険も高い。阿部四段も危険なことはわかっていたが、相棒の習甦がこの手を推奨していたため、思い切って踏み込んだという。しかし、数手進んでみると飛車を取られてしまい不利になってしまい、終始冷静に対処した佐藤・ponanzaチームが勝利した。
終局後の阿部四段いわく「コンピュータに任せ過ぎてしまいました。もうちょっと自分で指せばよかったかなと」とのこと。コンピュータとの練習対局を数多くこなしたせいか、その力を過信しすぎてしまったのかもしれない。一方の佐藤四段のほうは、重要な局面で自分の判断を優先させたことが功を奏したようだ。
続く2回戦の第1局は、抽選で好枠を引いた船江恒平五段・ツツカナタッグ(先手)対三浦弘行九段・GPS将棋タッグ(後手)の優勝候補同士の一戦である。
船江恒平五段は、関西の若手鋭才棋士。相棒のツツカナは出場するコンピュータの中でも人間的な指しまわしをすることで知られており、タッグの相性の点からも優勝候補の一角と目されている。
三浦弘行九段は、将棋界のトッププロのひとりで「第2回 電王戦」でも大将を務めている。相棒のGPS将棋もコンピュータ将棋界の最強ソフトであり、紛れもない優勝候補の筆頭。ただし、「第2回 電王戦」でGPS将棋はクラスタと呼ばれる技術で687台ものコンピュータで分散処理を行っていたが、今大会では1台のコンピュータで動作している点が懸念材料である。
対局は「横歩取り」と呼ばれる戦型で進んだ。優勝候補同士の戦いは、互いのコンピュータの評価値では、ほぼ互角の局面が長く続いていたが、水面下では対局者の心理に差が開いていた。それが次の局面である。……続きを読む