図2(71手目▲7三桂)船江五段が相棒ツツカナの推奨手を採用したこの局面がターニングポイントになった

本局はプロ棋士から見ても相当に難しい将棋となっていたようで、船江五段は途中で指し手の方向性が見えなくなっていたという。そこで相棒ツツカナの推奨手を採用したのが図の局面だ。

難しい局面でコンピュータの力を利用するのは自然なようだが、これがいけなかった。コンピュータは指し手は示してくれても、先の構想までは教えてくれない。船江五段はこの局面以降ますます指し手の方向性が見えなくなって、ほとんどコンピュータに頼り切りになってしまう。

力を合わせてプラスアルファの力を発揮できなくなった船江五段・ツツカナタッグは、息の合った相手に徐々に差を付けられて敗戦。この結果三浦九段・GPSタッグが決勝戦に進出した。終局後に船江五段が語った「一度コンピュータに頼りだすと、戻ってこられなくなる」というコメントが印象的だった。

2回戦第1局は1回戦で敗れた阿部四段が解説担当。「ぼく喋るの嫌いなんです」と言う阿部四段だが、敗者には即お仕事が待っているのだ

2回戦の第2局は、1回戦を勝ち上がった佐藤四段・ponanzaタッグ(先手)対塚田泰明九段・puellaαタッグ(後手)の対戦。

佐藤慎一四段・ponanzaタッグ(右)と塚田泰明九段・puellaαタッグ(左)

塚田泰明九段は「攻め100%」の異称を持つ豪快な棋風の持ち主だ。そして相棒のpuellaαの開発者の伊藤英紀氏と言えば「コンピュータ将棋は名人を超えた」などの過激な発言で話題となった。不仲説がささやかれている、というのは冗談だが、タッグの相性は懸念されるところではある。

対局は前局と同様に「横歩取り」に進んだ。そして、一局の方針が決まるほどの重要な局面で、佐藤四段がコンピュータの推奨手を採用する。ここまでの2局では、重要な局面でコンピュータの指し手を採用したほうが敗れているが、佐藤四段の運命は果たして……。

相棒の指し手を生かした佐藤四段

図の▲3六飛は、ponanzaの推奨手だった

結論から言うと図の▲3六飛は好手だった。佐藤四段はここからペースを握り、戦いを優勢に進めていく。

前の2局では失敗していたことが、本局ではなぜ成功したのだろうか。恐らくそれは、阿部四段や船江五段が、本当にその手でいいのか確信を持てないままコンピュータの推奨手を採用したのに対して、佐藤四段は「自分がその手を生かして見せる」という積極的な姿勢で採用したことにあるのだろう。

会場の観戦者やニコ生の視聴者もこのあたりで、佐藤四段の巧みな指し回しを感じ取っていたようで「サトシンつえー」「このタッグ相性いいね」などのコメントが飛び交っている。

塚田九段は、自分らしい戦い方にこだわるあまり、ほとんどpuellaαの推奨手に頼らなかったように見受けられた。タッグマッチは、コンピュータに頼り切ってはいけないが、頼らなくてもダメなのである。2回戦第2局は、佐藤四段・ponanzaタッグの快勝に終わった。

本局は谷川浩司九段(日本将棋連盟会長)が解説を担当。谷川九段は森内名人の一代先輩の「永世名人」有資格者だ。そして後半は森内名人も戻ってきた。ふたりの永世名人による超豪華解説は、タイトル戦などでもほとんど見られることがなく大いに盛り上がった

優勝候補の最強タッグに佐藤四段・ponanzaタッグが挑む

佐藤慎一四段・ponanzaタッグ(右)と三浦弘行九段・GPS将棋タッグ(左)

決勝戦の持ち時間1時間で、使い切ってからは1手30秒未満で指すルールとなる。優勝を争うのは、優勝候補筆頭の三浦九段・GPS将棋タッグと、1~2回戦で抜群のコンビネーションを見せた佐藤四段・ponanzaタッグである。

図4(29手目▲4五銀)谷川九段にあやかって指したという▲4五銀

戦型は先手番の佐藤四段の誘導で「角換わり」に進んだ。図の▲4五銀と言う仕掛けは、十数年前にプロ間でよく指されていた定跡だが、最近はあまり見ない。イベント後に佐藤四段に聞いてみたところ「会長(谷川浩司九段)がいらしていたので指してみようかなと思いまして」とのことだった。

補足すると、谷川九段は棋界随一と言えるほどの角換わりの名手であり、「前進流」と呼ばれる積極果敢な攻め将棋としても知られている。その谷川九段にあやかって、積極的に攻める作戦を採用したということだ。さらに深読みすれば、研究家として名高い三浦九段に対して、最新定跡で挑むのは危険と見たのかもしれない。古い定跡で相手の研究を外し、力と力の勝負に持ち込むことが佐藤四段の狙いであったのだろう。

さて、積極的な仕掛けを見せた佐藤四段だったが、この先苦しい情勢に陥ってしまう。……続きを読む