NHKの「あまちゃん」で、キョンキョン扮する主人公の母・春子さんが、娘であるアキの親友・ユイちゃんにナポリタンを食べさせ励ますシーンは涙なしには見られなかった(ちなみにナポリタンは春子さんいわく「あばずれの食いもん」とか!)。ところでこの名シーンの必須アイテム・ナポリタンだが、名古屋では少しだけスタイルが違うのだ。
誕生のきっかけはイタリアにあった
名古屋の喫茶店におけるナポリタンの「定番」は、アツアツの鉄板に乗った「鉄板ナポリタン」である。ちなみに名古屋ではナポリタンのことをイタリアンとも言うので、ここでは「鉄板イタリアン」と呼ぼう。名古屋のディープな喫茶店文化は有名で、ここからモーニング・サービスや小倉トーストの存在も全国区にまで広まった。
鉄板イタリアンも、名古屋喫茶店文化のド真ん中で育まれたものだ。ジュワッと音を立てたアツアツ鉄板の上にきれいな卵焼きが敷いてあり、熱がなかなか逃げない構造になっている。ケチャップの風味と卵のマイルドさが口の中で融合し、どこか懐かしい味。子供から大人まで誰もが大好きな味といっていいだろう。
略して「イタスパ」。イタは「イタリアン」という意味と、鉄板の「板」の二重の意味だという。 このイタスパの生みの親である店は、明確に分かっている。名古屋市東区にある老舗喫茶店「ユキ」だ。今も店に立つママの丹羽静枝さんによると、亡くなったご主人が同業者の人たちとパスタの本場イタリアへ旅立った経験から生まれたのだという。
お皿に盛ったスパゲティがすぐ冷めてしまうことに抵抗があり、「何とか最後までアツアツで食べられないものかな?」と考えたご主人。帰国後、パスタをステーキ皿に載せて提供するというアイデアがひらめき、鉄板イタリアンを創造したというのだ。
誕生は昭和36年、やっぱり昭和28年!?
ユキでの正式名は「イタリアンスパ」(650円)。初めて登場したのは、定説では昭和36年(1961)となっているが、改めて静枝さんに聞いてみると、「昭和28年だったかもねぇ」とのこと。どちらが正しいかはもはや不明だが、もう50年以上の歴史を誇ることは間違いない。
ともあれ、この味は評判を呼び、他の喫茶店がどんどん追随して名古屋で一気に拡散した。名古屋駅西口の地下街「エスカ」にある喫茶店「リッチ」でも、「鉄板ナポリタン」(サラダ付き960円)が長年の人気メニューだ。「地元の人は年配層を中心に懐かしがって、観光客の人は面白がって食べられますね」と、オーナーの三井克子さん。
昔ながらの味を守り、パスタは太め。味も濃厚なケチャップ味だ。イタスパお約束の赤ウインナーも健在だ。しかしタマネギなどの野菜を多めに入れることで濃い味でもグ~ンと食べやすくなるそうだ。
●information
喫茶ユキ
名古屋市東区葵3-17-42
喫茶リッチ
名古屋市中村区椿町6-9
アルデンテの細麺進化系も
今ではさらなる進化系も登場している。パスタ専門店「チェスティーノ」で提供されるのはその名も「昔ながらのナポリタン」(880円)。しかしルックスこそ「昔ながら」だが、麺は茹(ゆ)で上げアルデンテの細麺。自家製トマトソースを使った本格派といっていい。
レトロ気分でイマ風パスタを食べるという不思議さを味わえるのは、「ただ昔っぽいだけじゃ、つまんないですからね」という、栄店・石川宣広料理長の自信作であるがゆえ。なお、同店では名古屋名物あんかけパスタをプラス50円出せば、鉄板スタイルで楽しめるうれしいサービスも。
●information
チェスティーノ栄店
名古屋市中区栄5-1-7
懐かしさ満点の「イタスパ」。名古屋に来たなら、是非味わってほしい。ただ、鉄板に触れると火傷(やけど)するほどのアツアツ! 注意しながらハフハフ召し上がれ!