――『ガンダム』の魅力はさまざまですが、川口さんが強く惹かれた部分はやはりメカニックでしょうか。

個人的には"すべて混じっている"ということ。「こういうシーンだから、こういうものが出てくる、こういう使われ方をする、こういう人が乗っている、それが画としてすごくカッコイイ、一緒になっているから面白い。メカのかっこよさとか、どれかひとつだけ取り出して「すげー!」という感覚は、僕の場合はありません。富野氏の物語があり、大河原氏のメカデザインがあり、安彦氏のキャラクターデザインと原画があり、それらが一緒になっているというのが何よりの強さでしょう。

――ある意味奇跡のような……

そう。「めぐりあい」ですよ(笑)

――では、ファーストガンダムでお気に入りのモビルスーツ、キャタクター、シーンは?

ガンダム・ガンプラを仕事にしてもう30年近くになりますから、純粋にファンの目では見れないけれど(笑)。一番思い入れがあるのはドムです。『ホビージャパン』さんで初めてキットデビューをやらせてもらったのが、100分の1のドム。それからしばらくしてバンダイに入社しますが、『モデルグラフィックス』さんで、やらせていただいたライター最後の仕事もドム(笑)。ドムには、折々で思い入れを持ちながら作っています。

第24話「迫撃! トリプル・ドム」より (C)創通・サンライズ

登場人物はマチルダさんです(笑)。キャラクターは感情移入がベースにあるので、物語として、そして人物が素敵でないと楽しめない部分があるし、女性キャラはキーになります。マチルダさんは、ホワイトベースのクルーのような"ひよっこ"ではない軍人で、かっこよくて、きれいだった。当時は深夜放送が好きで、僕らの世代のほとんどが『オールナイトニッポン』である中、僕は『パックインミュージック』だったんです。特に野沢那智さんのパックが好きで、主宰されていた「劇団薔薇座」の公演なんかも見に行ってたんですけどそこに戸田恵子さんがいらっしゃって、マチルダさんは声優が戸田さんだというのもフックでした。

第9話「翔べ! ガンダム」より (C)創通・サンライズ

――となると、好きなモビルスーツに、好きなキャラクターが叩き潰されてしまうことに……。

そうです(笑)。マチルダさんが、ドムにやられるのは、けっこうきましたよ……。でも、今風にいうなら「フラグが立ってた」じゃないですか(笑)。どういう形かは別にして、逝っちゃうんだろうなって漠然とは思っていましたけど。やっぱり、感情的にはゆさぶられましたね。後は、シーンとしては「ランバ・ラル特攻!」(第19話)でしょう。アムロが脱走してランバ・ラルと斬り合い、ホワイトベースに帰っていく――今見てもすごくドラマチックだと思います。

第19話「ランバ・ラル特攻!」より (C)創通・サンライズ

――今回はファーストのインタビューなのですが、あえて聞いてみたいことがあります。逆にファースト以外でのお気に入りはありますか?

好きというより思い入れで言うと『Gガン』(『機動武闘伝Gガンダム』1994年放送)です。宇宙世紀を外し、キャラクターもメカデザインも一新され、周りはいわゆるアンチばかり。5月の「静岡ホビーショー」で散々な評価で、セールスも全く振るわない状態。ただ、今川監督(今川泰宏氏)から伺っていたプロットから"面白くなる"という確信はあったので、関係者と話しながらやっていきました。

メインの2号機(ゴッドガンダム)が変わるタイミングでデザインがなかなか決まらなかったんです。あまり怒らない大河原さんから「いい加減にしてくれ」と言われてしまって、サンライズの人と謝りにいったり……。だからゴッドガンダムは特に思い入れが強い。「川口君どうしたいの?」と何度も言われる中で、デザイン、ギミックを詰め、商品的なアイディアを提案していき、それらが番組の中で使われたのが何よりうれしかった。本当に苦労しましたから。

となると、お気に入りのキャラクターは『Gガン』の東方先生(東方不敗マスター・アジア)になります。東方先生がいないと『Gガン』は成立しませんし、『ガンダム』そのものが今に至っていたかどうかもわかりません。偉大な師匠ですよ(笑)。

――来年は『ガンダム』35周年の年になりますが、当時『ガンダム』がこれほど長く愛されるようになると想像されましたか?

正直まったく思ってませんでした(笑)。 何度も再放送され、劇場版三部作があり、ガンプラも「モビルスーツバリエーション」という形で広がっていきました。けれど同時に、『エルガイム』『ダンバイン』『バイファム』といった、リアルロボットアニメをサンライズさんが出されてたので、ジャンルとして受け継がれていくんだろうなという感覚でしたね。『ガンダム』そのものが35年も続くとはまず思っていなかった(笑)。……続きを読む