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――そうして『ガンダム』は、初期のファンだけでなく、常に新しいファン、新しい世代のファンを獲得しながら続いていくわけですが、その秘訣はどのようなものだと思いますか?

正解はないでしょう。ただ、僕が思うのは『ガンダム』が既にブランドになっていること。『スーパー戦隊』でも『仮面ライダー』でも、新しい情報、コンテンツを出し続けていかないとキャラクターは途切れてしまう。ガンダムの場合、作品的には『Z』があり、『ZZ』があり、『逆襲のシャア』があり、新しいお話をずっと紡いできています。宇宙世紀に関する話は『Vガンダム』まで続き、そこから先ほどの『Gガンダム』や『W』(新機動戦記ガンダムW 1996年放送)と、違う物語に発展していきます。共通して言えることは、常に新しいコンテンツを提供し続けてきたということです。アニメーションやプラモデルだけでなく、ゲームもそうだし、ビデオパッケージにしてもそう。受け手が常に情報を受け取れる形でないと続かないと思います。

もうひとつ言えるのは、ファーストを見た当時、子供だった人たちが大人になり、自分の裁量で仕事ができるポジションについていらっしゃるということ。『ガンダム』への愛着を持ってる人に、いろんな形で『ガンダム』を取り上げてもらえる状況があるというのは、とても大きいでしょう。お台場に18メートルのガンダム立像が実現できたのも、そうして支持してくださる方がたくさんいらっしゃったからでしょう。

そうやって新しいコンテンツを提供し続けていくなかでも、ファーストって、やっぱり特別なものだと思います。『SEED』(機動戦士ガンダムSEED 2002年放送)から入った人も、『00』(機動戦士ガンダム00 2010年放送)でも『AGE』(機動戦士ガンダムAGE 2011年放送) でガンダムを知った人も、どこかのタイミングでファーストに触れるんです。だから、やっぱりファーストはクラシカルなキャラクターとして、例えばディズニーであればミッキーマウス、ウルトラマンであれば初代ウルトラマンのように、原点のオリジナルとして特別な存在になっているんですよね。

――すべての原点となったファーストですが、8月28日には『機動戦士ガンダム Blu-ray メモリアルボックス』が発売されます。ファンなら誰もがほしくなる豪華特典が満載ですが、川口名人が一番魅力を感じるものはどれでしょう?

うーん……これはいろいろありますねえ(笑)。一番は「資料解説集」でしょうか。プラモデルを作るときに、寄りどころが欲しいんです。自由に作れるのが模型の楽しさなんですが、自由というのは不自由なところもある。「ガンダムってやっぱりこうだよね」と、基本を再確認するための寄りどころとして使いたい。決して設定に縛られるわけじゃないんですが、あくまで寄りどころとしてね。これからもプラモデルを楽しんでいきたいなと思います。

『機動戦士ガンダム Blu-ray メモリアルボックス』(C)創通・サンライズ

――そして『機動戦士ガンダム Blu-ray メモリアルボックス』に合わせて「MG 1/100 RX-78-2 ガンダムVer.3.0」も発売されました。表現の密度や、動作の再現性など、さまざまな面で大きく進化していると思いますが、どのような点を一番楽しんでもらいたいですか?

アニメのシーンがどれだけ手元で再現できるか、ということがポイントだと思っています。昔のガンプラは、可動範囲も制限があり自在なポーズというのは取れなかった。どうしてもやりたければ、改造するしかなかったんですね。「Ver.3.0」なら、改造するとか特別なスキルなしで、自分のイメージするガンダムができてしまうんです。ガンダムというものの魅力を、あらためて体感してもらえるといいですね。

ファースト当時を思い出すと、毎回作画さんが変わったり、AパートBパートで絵が変わったり、演出で大胆にデザインがアレンジされたりもする。全話見てもどのガンダムが"オレのガンダム"かというのは人によって違うんです。その中で"自分なりのガンダム像"を表現するための素材として手にしていただければありがたいですね。

第33話「コンスコン強襲」より (C)創通・サンライズ

――初期のガンプラとは比較にならないほど大きな進化を遂げていると思いますが、「MG Ver.3.0」は、川口さんがイメージされている"ガンプラの理想"のどの辺りまでたどり着きましたか?

現時点では、満点をあげてもいい(笑)。今、世の中でもっとも認識されているガンダムのデザインは、お台場の18メートルガンダム立像だと思います。「Ver.3.0」はこの実在する18メートルのガンダムをスケールモデルに近いアプローチで作ってますから、さまざまな模型としての楽しみ方ができるんじゃないかと思います。

――ガンプラの歴史を振り返っていかがでしょうか。

ガンプラの進化を振り返ってみると、接着剤を使わなくていい、色も塗らなくていいと、仕様が変わったのがとても大きい。初めて作る人が、道具や材料がなくても、手軽に、簡単に楽しめるというのが、ガンプラがここまできた大きな理由だと思います。

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――では最も思い入れのあるガンプラは?

MG(マスターグレード)で担当したGP01(ガンダム試作1号機・ゼフィランサス)ですね。MGそのものが、自分のやりたいことをやらせてもらったシリーズになります。最初のRX-78(ガンダム)やザクは、自分の中で迷いがあった部分もあって……GP01は、RX-78のリメイクだと捉えて、仕切りなおしてやってみようと。結果として、納得できた商品なんです。

――では最後に、『ガンダム』やガンプラを愛するファンの皆さんに、ひと言お願いします。

プラモデルって、「スゲーものを作ろう」とか、「うまくなってやろう」とか考えると、疲れてしまいます。自分ができる範囲で、とにかく作ってみて、完成させること。それでひとつ達成できるわけです。それを繰り返していくと、必ずスキルも上がっていきます。同時にアニメーションをご覧になって、「あ、かっこいいな」と思った時にプラモデルを手にしてもらえると、その気持ちをもう一回自分のなかで追体験できますから、映像コンテンツとプラモをいっしょに楽しんでもらえるといいですね。

そして、ここまで30余年続いてきているもの、これだけ長く愛されている『ガンダム』というコンテンツには愛される理由がきっとある。それを考えること、正解は出せないかもしれないけど考えることが大切。なくしていけないものが絶対にある、その裏側には変わっていった方がいいものもある。ずっと見てくると折々にそういうものがあり、これからも『ガンダム』と付き合い続けていく時には意識しなけばならないことだと思っています。

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