山を越えてたどり着いた果ての小さな漁村は、時が止まったかのようだ

今や摩天楼がひしめく大都会・香港だが、100年ちょっと前までは漁村だった。しかし、都市部から約2時間くらいのところに、昔ながらの漁村が残されているというのだ。ただここ、ノスタルジックを味わうのみならず、一味違うグルメや味なひとときも楽しめるとか。

“アジアのベニス”を目で匂いで体感

香港空港のあるランタオ島の最西端の街・大澳(タイオー)。ここは西の海に沈む夕陽がきれいなことで有名で、香港の若者が週末に押し寄せるというデートスポットとしても人気だ。ノスタルジックな街並みを散歩し、ゆったりとした素朴な時間を味わうにはもってこいの場所である。

西の果て、行き止まりのバスターミナルを降りると、早速魚の匂いが漂ってくる。人が3人並ぶといっぱいの小径には、所狭しと魚の内蔵を干した海産物や土産物屋が軒を連ねている。採れたて魚介の焼き物なども売っているので、食べ歩きも楽しい。

通りをそぞろ歩けばおいしそうな匂いに遭遇

「金田一少年の事件簿 香港九龍財宝殺人事件」のロケ地でも使われた橋

曲がりくねった道を軒先をのぞきながら進むと、河口につながる川にかかる手巻き式の跳ね橋が見えてくる。この橋はランタオ本島とその先の小島を結ぶもので1996年に登場。この橋ができるまで85年もの間、旧式の網引きフェリーで人を運んでいたという。ちょっと斜めで美しい橋と、その下を行き交う船。“アジアのベニス”と言われるゆえんはここにもあるのだろうか、新しい橋なのになぜか古い街並みと合っているのだ。

水上生活の暮らしが今でも残る

本島から渡った先の小島の周辺は、東南アジアなどで見かける多数の木の上にブリキで建てられた水上家屋(棚屋/パンオッ)が連なっている。香港が亜熱帯でもあることを目の当たりにすることができるのだ。

元々、漢民族の貴族階級の末裔(まつえい)の「客家」がここに流れ着き、よそ者と扱われたために土地を持つことができなかったそうだ。この水上家屋の住人はほぼ漁師。彼らの作る大澳名物のエビペーストは至極濃厚で、道の脇で干しているエビの強烈な匂いが漂ってくる。

大澳名物・干しエビと豚肉と魚の蒸しご飯

魚の内蔵の玉子とじや、カニなど魚介料理のバリエーションも豊富。「横水渡小廚(Tai O Crossing Boat Restaurant)」で食べられる

ノスタルジックな雰囲気を味わいながらの散歩も楽しく、一周歩いても30分もあれば巡れてしまう。途中、漁師料理のレストランもあるので、是非時間があれば味わってみよう。魚の内蔵の卵とじや魚と肉の蒸しゴハンなど、地方料理独特の濃いめなものが多く、なかなか高級料理店では出合えないジャンクさだ。

元警察署で安らぐひととき!?

中国式アフタヌーンティは、くるみ餅や冬瓜餡の入ったパイ・老婆餅(ワイフケーキ)、豆腐花など伝統菓子なども楽しめる(156香港ドル(約2,000円)/2人)

更にこのエリアには興味深いホテルがある。小島の先端にて2012年にオープンした「タイオー・ヘリテージ・ホテル」だ。実はここ、1902年に設立された当初は、海賊や密輸入を取り締まり、イギリスの規律を知らしめる役割を担った警察署だったという。部屋数はわずか9室で、当時の鉄格子や拘置所などが今でも残されている。

元々乾燥室だったレストランでは、アフタヌーンティも提供。平日はイングリッシュアフタヌーンティだが、週末はチャイニーズスタイルで、昔ながらの香港のお菓子が味わえる。散歩に疲れたら、是非ご賞味を。

●infomation
TAI O HERITAGE HOTEL(タイオー・ヘリテージ・ホテル)
9室(スタンダードルーム5室、スイートルーム4室)
1,500香港ドル(約19,200円)~