実はイベント期間中、GPS将棋に勝利して100万円を獲得した勝者が3人いる。運営のドワンゴとしてはまさか本当に100万円を獲得されるとは思っていなかったらしく、300万円の出費に慌てふためいていたようだ。もしこの日も獲得者が出れば400万円以上の出費。もともとゼロを見込んでいただけにそんなことになってはシャレにならない。
ということで、この日はGPS将棋の実力をフルに発揮するため、ドスパラからハイエンドのPCを提供してもらうなど運営側も準備万端である。果たしてGPS将棋に勝利する一般ユーザーは現れるのだろうか。
対局は同時に3台まで行われ、持ち時間は15分。持ち時間終了以降は30秒将棋となり、対局者の隣に座っている女の子、通称「秒読みちゃん」が残り時間を読み上げてくれる。千日手、相入玉となった場合は指しなおしとなり、256手目で勝負がついていない場合、解説棋士により引き分けか、続行かを判断することになる。なおこの日の解説は先日高校を卒業したばかりという若きプロ棋士、佐々木勇気四段が務めた。
まずは整理番号1番から3番までのユーザーが呼ばれ、机の前に座って対局がスタートする。相手はコンピュータなので将棋盤ではなく、目の前にあるのはPCモニターだ。対局者の3人が同じ方向に向かってずらりと並んだ姿は何ともシュールで、とても将棋を指しているようには見えない。
そうこうしているうちに対局はどんどん進む。先ほど述べた通り、将棋に関しては超初心者なので何となく盤面を見て雰囲気をつかむくらいしかできないのだけど、会場に設置されていたモニターにニコ生が映しだされていて、プロ棋士の解説と画面を流れるコメントで何となく状況を把握できるのがありがたかった。駒の動かし方もわからないとか、興味すらないとかではさすがにキツイが、多少なりともルールを知っているなら、ニコ生のコメントと合わせて十分に勝負の空気を楽しむことができるのだ。よくできた将棋漫画はルールを知らなくても雰囲気と演出で読者を楽しませるが、まさにそういう感じのイベントだったと思う。
残念ながらこの日は一人も勝者が出ず、結局イベントトータルでは84人が対局してコンピュータ81勝、人間3勝という結果に終わった。ニコ生運営的には3勝されただけでも想定外の結果だろうが、全国からトップアマが集結したことを思えば、コンピュータの強さはまさに圧倒的である。特に終盤の読みの正確さにかけては解説の佐々木四段も舌を巻くレベルであり、電脳戦本番でプロ棋士たちがどう対処するのか楽しみだ。
最後に、今回すべての開催日に参加したという松本さんにお話を伺った。
コンピュータとの対戦を普段からよくやっているという松本さんは、「コンピュータの強さは十分知っていた」といい、まともにやれば勝ち目がないのでコンピュータの穴をつく作戦を考えてきたのだという。実際、この日の対局でも中盤で作戦が当たったらしく、会心の笑みを浮かべる場面も見られた。残念ながらその後はGPS将棋に挽回され、敗れてしまったのだが、悔いはないと清々しい表情を浮かべていた。
コンピュータ対戦の魅力について松本さんは、「人間の発想ではなかなか出てこない斬新な手を指してくる。それを見るのが楽しみの一つ。勉強にもなります」という。人間の常識にとらわれないコンピュータの自由な将棋と、長い歴史の積み重ねによって洗練されてきたトッププロの将棋、果たしてどちらが勝るのか。
人間VSコンピュータ。歴史に残る戦いの火蓋はもうまもなく切って落とされる。