時は戦国時代。天下統一を狙う豊臣秀吉の家臣・石田三成率いる2万人の兵にたった500人で立ち向かった成田長親(野村萬斎)とその家臣や農民たち。彼らの真っすぐで懸命な生きざまを描き、現在大ヒット公開中の異色時代劇映画『のぼうの城』の犬童一心監督と樋口真嗣監督に話を聞いた。

犬童一心監督(右)と樋口真嗣監督

――昨年の震災の影響もあり、公開が延期されていましたが、今の率直な気持ちからお聞かせ下さい。

樋口「もちろん公開するために作っているわけですが、こういうエンターテイメント系の作品には賞味期限があって、僕としてはそれが切れることを一番恐れてました。けれども、幸いにしてこのタイミングで他にテーマが被る映画もなく無事公開することが出来て良かったです……ま、こんな大変な映画、誰も真似しないでしょうけど(笑)」

――「大変な映画」とは具体的にどういうことですか?

犬童「そもそも和田(竜)くんの書いたシナリオが城戸賞への応募作だから、予算制限がなく書かれているんですよ。面白ければいい、というある意味とてもピュアなシナリオなんだけど、ただ、それを映像化するとなると話はちょっと別で(笑)。制限のないシナリオを制限のある中で映像化しなければいけないというのが大変でしたね。普通は『これくらいの予算だろう』と考えて書くじゃないですか。でも、和田くんの書いたシナリオには一切それがないんですよ」

樋口「僕たちは『歩留まり』って言いますけど、この作品は現代劇に置き換えたらインドでロケして南極でロケしてニューヨークでロケする、みたいなものですから(笑)」

犬童「最初、撮るという実感がなく読んだ時はすごく面白いなと思って、それで(野村)萬斎さんに頼んだら引き受けて下さって。それが7年前の話。で、いざ冷静に読み出すと……ちょっと困ってしまって(苦笑)。たとえば『門の前に三成軍、5000』ってフツーに書いてあるんですけど、『え? 5000!? うーん……』みたいな(笑)」

『のぼうの城』

――かなり苦労されたんですね。

樋口「いや、苦労する前の話ですから。それに、映画業界ではわりと多いんですよ、『やる』って言ってるけど企画倒れになるような映画って。でも、この作品はまったくの新人のシナリオでしかなかった状態から、プロデューサーの久保田(修)さんが不屈の精神でベストセラーにして、みんなの心を動かしたんですよ」

犬童「簡単に言えば、誰もがみんな『ベストセラーじゃないから(映画化は)やらない』って言うから『だったらベストセラーにしたらやるの?』という」

樋口「そうやって最終的にみんなも『これでいいだろう』と納得しましたから」

――映画の内容さながらに、そのようなドラマがあったとは知りませんでした。

犬童「一番のドラマはそこだと言ってもいいかもしれません。今の日本映画は売れている原作ありきという状況が少なからずある。だからこそ、この映画がヒットすればそんな状況を少しでも変えられるのではないかと」

樋口「そこは声を大にして言いたいですね」……続きを読む