地図を見ていると、突然、とんでもないところに他の国や県の名前が書かれていることがある。かつてドイツが東西に分かれていた頃のベルリンなどもそうだが、こうした場所のことを“飛地(とびち)”と呼ぶのをご存じだろうか?
辞書によると、飛地とは「他の区域内に離れて存在するが、行政上は主地域に属する土地」。なぜそうした土地が存在するかというと、河川の流路変更、領土の買収、集落ごとのため池設置など、理由はいくつかある。
そして実は日本にも、県や市町村の飛地は数多く存在している。それでもそのほとんどはどこかの自治体に隣接しているのだが、和歌山県に唯一、同じ県の自治体と接していない村がある。それが、「北山村」だ。周囲を奈良県と三重県に囲まれた北山村とは、どんなところなのか?
新宮(しんぐう)市と連帯した村
北山村は紀伊半島南東部の山間部にある。村域の約97%が山林で、村の中を流れる北山川沿いのわずかな平地に集落が集まっている。現在の人口はわずか500人足らずという小さな村だが、かつては林業で栄えたこともある。
林業が盛んな頃には、山で育てた木を利用していかだが作られ、北山川から輸送されていた。その北山川が新宮川の支流ということから、最終的には新宮に運び出されて全国に搬送されていた。そのことから、北山村と新宮市との結びつきは自然と強くなったという。
そして、明治時代の廃藩置県の際に、北山村サイドが和歌山県に入ることを望んだことで、同村は奈良県と三重県に囲まれながらも、和歌山県に所属することになったのだ。
今は豊かな自然と川を生かしたリゾート地
時を経て林業も衰退した今、北山村では過疎化が進んでいるが、それを解決すべく現在、村では様々な対策を練っている。その最たるものが、いかだ下りの再現。林業で栄えた頃に使っていたいかだ流しを再現し、川下りが体験できるようなった。村全体が大自然と共存するリゾート地に、生まれ変わろうとしている。
これについて北山村観光センターでは、「昭和40年代、七色ダムが建設されたため木でいかだを組んで運ぶことはなくなりましたが、昭和54年に“北山川観光いかだ下り”としていかだ流しを復活させたところ人気を呼んでいます」と説明。
その他、地元の若者がラフトを使用して川下りをするレジャースポーツ「ラフティング」に目をつけ、北山村の急流を生かしてこれを始めたところ、全国的にも知られることになった。あわせてアウトドア施設も整備され、今ではダム湖畔の「おくとろ公園」に、バンガローやコテージ、テントサイトなどが設置されている。
日本一の生産量を誇る「じゃばら」
北山村のもうひとつの名物が「じゃばら」だ。一般的にはじゃばらと言っても知らない人は多いはず。それもそのはずで、日本でじゃばらを育てているのは北山村のみなのだ。
じゃばらとはミカンやユズの仲間で、かんきつ系の果物だ。その独特の名は「邪(気)をはらう」ところから付けられたそう。「ユズよりも果汁が豊富で、ユズやスダチとは違った風味があってまろやかな味です。また、疲労回復に役立つビタミンやカロチンも含まれ、花粉症にも効果があると言われています」(北山村観光センター)。
同村では11月11日(日)、イノシシ鍋を振る舞うイベントも予定している。秋の行楽に北山村を訪ねてみるのはいかがだろうか?
● information
「じゃばらの里・筏の村」北山村観光