"痛み"全般を指す「疼痛」とは一体何なのか?

「今日は何の日?」カレンダーを見ていたら、10月20日には「疼痛(とうつう)ゼロの日」と書かれていた。「疼痛」という言葉を初めて目にした人も多いかもしれないが、名前は聞いたことがあっても、どのようなものなのかよくわからない人も多いのではないだろうか。

国際疼痛学会の定義によると、「実際または潜在的な組織損傷に伴って起こるか、またはそのような言葉を使って述べられる感覚的・情動的な不快な体験」とのこと。つまり、疼痛とは「痛み」全般を指す言葉のようだが、これだけでは漠然としていてわかりにくい。

しかしながら、日本慢性疼痛学会のホームページによれば、全人口の約14~23%もの人が慢性疼痛を保有しており、治療に満足しているのは患者の約1/4にすぎないという。これほど多くの人が悩まされている疼痛とは具体的にはどのようなものなのか、どのような治療法があるのだろうか。日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野・主任教授 小川節郎氏にお話をうかがった。

ビリビリするような痛みを感じたら、神経が損傷している可能性大!

――疼痛とはいったいどんな痛みなのでしょうか?

小川教授「【疼痛】とは【痛み】と同じ意味です。痛みは、『1.炎症・刺激による痛み(侵害受容性疼痛)』『2.神経の痛み(神経障害性疼痛)』および『3.心理社会的問題からくる痛み(心因性疼痛)』の3つにわけることができますが、『1と2の混合性疼痛』もめずらしくありません。またこれらは、急性疼痛と慢性疼痛に分類できます。

『侵害受容性疼痛』とは、損傷を受けた部分に炎症がおこり、それが原因で発生する痛みのことです。ケガや血管拡張による頭痛、肩関節周囲炎や腱・腱鞘炎、関節リウマチなどがこの痛みに該当します。これらの痛みはもとになっている炎症が治まると同時に痛みも緩和されるのが特徴的ですが、長い期間続くこともあります。

『神経障害性疼痛』は、見た目には傷や炎症はすでにないものの、神経が傷つくことによって起こる痛みのことを指します。ケガや手術などで神経を傷つけた場合はもちろん、ウイルス感染や糖尿病などの代謝障害、がんなどの腫瘍による圧迫や、神経組織にまでウイルスやがん細胞が広まることでも神経が傷ついて発生します。

具体例としては、帯状疱疹後神経痛や、糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ、坐骨神経痛、三叉(さんさ)神経痛、脳卒中後疼痛や脊髄損傷後疼痛などが挙げられます。

『混合性疼痛』のように、両方の痛みをあわせもつ痛みとしては、慢性腰痛や首から肩・腕にかけて痛みやしびれなどを感じる頸肩腕(けいかんわん)症候群、女性に多く、手がしびれるような痛みを感じる手根管(しゅこんかん)症候群、がん性疼痛などが挙げられます」

――『侵害受容性疼痛』は物理的な痛みかと思うのですが、『神経障害性疼痛』の神経の痛みとは、どのようなものなのでしょうか?

小川教授「手を切って血が出るときの痛みは、組織が壊れることによって感じる痛み(侵害受容性疼痛)です。急性のものなので、炎症がおさまれば痛みも感じなくなります。

これに対し、神経の痛みとは、炎症がおさまっても痛みが継続するので、ケガの治療後も痛みが継続する場合は神経の痛みといえるでしょう。ズキズキしたり、ヒリヒリしたりするような痛みが特徴です」

――神経の痛みは、時間経過とともに強まるものなのでしょうか?

小川教授「病気の種類にもよりますが、必ずしもそうとは限りません。痛みが増す人もまれではありません。特徴としては、天候や体の調子によって、痛みに波があります。触るとビリビリするような痛みも、神経の痛みの特徴です」

――痛みを感じたらどうすればいいでしょうか?

小川教授「通常では治ってしまうと思われる日時を過ぎても痛みが続く場合は、すぐに病院へ。ペインクリニックをおすすめしますが、神経科、整形外科、神経内科、脳神経外科などの受診でも結構です。最寄りの医療機関を受診しましょう。

痛みを放置してしまうと、まれに痛みの部位が広がったり、症状が増悪してしまうこともあります。例えば、人さし指をケガしたときに神経も傷つけてしまうことがありますが、傷が治ったことで神経の痛みを放置してしまうと腕全体が腫れてしまい、触っただけでも痛みを感じるようになってしまうこともあるのです」

日本人には痛みを我慢する美徳があり、これが疼痛の認知度低下および治療の遅れにつながっているようだ。

ファイザーがエーザイと共同で行った調査(慢性疼痛の条件を満たした各都道府県の20代以上の男女各200人/調査期間:6月12日~15日)でも、慢性疼痛を抱える人の7割以上が「痛みがあっても我慢するべきだ」と思っており、「痛い」と簡単に他人に言うべきではないと回答した人は半数以上と、痛みを我慢している実態が明らかになっている。

神経の痛みは薬物療法によって治療できる

神経の痛みを感じたら、鎮痛薬で緩和することは可能なのだろうか。引き続き、小川教授にお話をうかがった。

小川教授「神経の痛みは、インドメタシンなどの普通の鎮痛薬が効きにくい特徴があります。それなのに、鎮痛薬を飲み続けては、痛みがひかないばかりか薬の副作用を受け続けることになってしまうのです。

治療法としては、抗けいれん薬や抗うつ薬を処方します。最近では抗けいれん薬のリリカという薬の投与が一般的です。痛みの原因でもある、知覚神経の異常興奮をおさえることができます」

小川教授によれば、痛みをゼロにすることは難しいが、薬物療法によって痛みを緩和し、患者の日常生活の向上や満足度を上げることは可能とのこと。

急性の痛みは、身体に異常が起きたことを知らせるサインでもある。普通の状況とは異なる痛みを感じたり、しびれるような痛みが継続する場合は、我慢をせずに専門医へ相談してはいかがだろうか。