「四国」と聞いて「お遍路」をイメージする人も多いのではないだろうか。白装束に身を包んで、四国にある八十八カ所のお寺巡りをする人たちの姿は有名だが、どうして八十八カ所もの寺を巡るのかということはあまり知られていない。しかも、実は多くの寺をまわる理由は諸説あり、どれが正解かは分かっていないのだ。
かなえたい願いのためなら、煩悩だって捨てられます!
四国ではその昔、海の向こうの浄土を目指す修行者が海辺で鍛錬を積み、その周辺を巡っていたことから、"土地やその道"を指す「辺地」・「辺路」が元になって「お遍路」という言葉が使われるようになったと考えられている。
さらに、人間には八十八の煩悩があるとされるが、霊場を八十八カ所巡ることによってその煩悩がひとつずつ消えていき、ついには願いがかなうといわれていることから、多くの人がお遍路を巡るようになったとのいわれもある。
ちなみに四国では、今でも弘法大師が札所を巡っているとされていて、お遍路で札所を巡ることで弘法大師の功徳を得られるといわれている。そして、こうしたいわれから、四国に残されている弘法大師ゆかりの地や社寺は「番外札所」とも呼ばれている。
いずれにしても、今は「お遍路」というと、"四国のお寺を巡礼すること"を指すことになっているのは確かだろう。
何事も、まずは格好が大事です!
ところで、お遍路の全行程は約1,400kmに及び、また宗教的な意味合いも深いことから、巡礼に当たって身支度することが決まりとされている。
どのような支度が必要なのか、お遍路の旅を専門に扱っている旅ネット四国の代表取締役である秋山忠さんに話を聞いた。
「お遍路は、光に満ちた四国の大自然の中、お大師様(弘法大師)とともに心と身と体をみがき、八十八の煩悩を一つひとつ取り除き、大自然の中で生かされている喜びにひたると同時に、自分自身を見つめ直す修行の旅ですから、身を清める装束が必要です」。
具体的には、まず、外を歩くのに欠かせない「菅笠(すげがさ)」が必要だ。その傘にきちんと"同行二人(どうぎょうににん=弘法大師とともに歩いていますよ、という意味)"などの決まり文句が記されていれば、お堂の中でも笠(かさ)を取らずにそのまま礼拝していいとされている。
そして、忘れてはならないのが、「白衣(はくえ・はくい)」。 上下白づくめが基本で、道中着と判衣の2着用意することが必須である。
「ご宝印をいただくため、洗えないので注意してください。また、すべてのご宝印が高野山奥の院でそろった判衣は、自分が死んだあと、家宝としてのこすこともできますが、冥土へ旅立つ晴れ着にもできます」と秋山さんは説明する。
それから、杖(つえ)は遍路を導く弘法大師の化身とされる「金剛杖(こんごうづえ)」。こちらは、取り扱いにも注意して、丁寧に扱うことが大切だ。
「宿に着いたら、まず杖の先を洗い、隅々まできれいにふき、合掌しましょう。それから、橋の上では杖をついてはいけません」と秋山さん。さらに、「輪袈娑(わげさ)」も必要だ。これは礼拝の正装具であるが、遍路の道中修行の身支度段階ですでに身に付けることになっている。秋山さんは、「お手洗いなどの不浄な所に立ち入る際は取り外してください。また、輪袈娑はよくずれるので輪袈娑止めを購入するのがおすすめです」と言う。
「山谷袋(さんやぶくろ・ずだぶくろ)」も持ち物を納めて持ち歩くのに便利なため、必需品といえるだろう。そのほか、「札入れ巡礼セット」や「念珠(ねんじゅ)」、そしてお遍路さんの特徴ともいえる仏様をもてなす「持鈴(じれい)」をそろえれば、もう一人前のお遍路さんにみえる。
ちなみに、旅ネット四国では、金剛杖を除くすべての必需品を、1万~1万5千円ほどでそろえられるそう。「金剛杖は、仏様の代わりですから2万円ほどします」とのこと。
その道のプロに頼るのもひとつの手
最後に、1,400キロの道のりを巡る本来の方法は、自らの足で歩くことだが、タクシーやレンタカー、バスを利用する人もいるのだそうだ。距離があるだけでなく高低差も大きいことに加え、整備されている道ばかりとは限らないため、高齢者などにとっては大きな負担がかかることが間違いない。事実、約70%の人が途中でギブアップするというから、若者であっても相当な覚悟が必要かもしれない。
しかし、自分で歩けないことを恥じる必要はない。大切なのは、お参りしようという心なのだから。交通手段を使う場合、イチオシはタクシーだという。秋山さんによると、四国霊場公認の「先達(道先案内人)」資格を持ったタクシー運転手なら、お参りの作法やお寺のいわれを教えてくれるばかりか、一緒に般若心境を唱(とな)えてくれるのだとか。
いずれにしても、身支度にとりかかる際から、雑念を取り払い、神聖な気持ちで臨んでほしい。